外科医である著者がミスを減らすための方法として、チェックリストの有効性を紹介している。人は能力を過信して、チェックリストなど使いたがらない。しかし、チェックリストを導入すれば、医療ミスの削減にも絶大な効果があると実証している。
危機管理に有効な対策として、チェックリストを薦めている。
■知識があってもミスは防げない
1970年代にサミュエル・ゴロビッツとアラスデア・マッキンタイアという二人の哲学者が書いたエッセイには、人間が失敗する原因の多くは「無理」にあるとしている。科学技術の助けを借りても、人間の肉体と精神には限界がある。
一方で、高層ビルの建設、大雪の予知、心筋発作の患者の治療など、私たちが対処できる領域では、失敗の原因は2つある。「無知」と「無能」である。人間の歴史の大半では「無知」が一番の問題だった。その最たる例が病気である。しかし、ここ数十年、私たちは急速に知識を得たことで、「無能」がより重要な問題になりつつある。
医学の進歩は、医者に6000の薬と4000の手技を与えたが、それぞれに使用条件、リスク、注意点がついてくる。正しい治療法を知っていても、手順を一つも誤らずにそれを行うのは非常に困難である。医療に限らず、知識と技術はどの分野でも驚異的に発達しており、その分だけ使いこなすのが難しくなってきている。
チェックリストはマニュアルではない。高層ビルの建設用であれ、飛行機のトラブル解決用であれ、全ての手順を詳細に説明するものではない。チェックリストは、熟練者を助けるためのシンプルで使いやすい道具である。素早く使えて、実用的で、用途を絞ってあるという特性こそが肝要である。
チェックリストは手間がかかるし、面白くない。怠慢な私たちはチェックリストが嫌いである。さらに、チェックリストを使うのは恥ずかしいことだと心の奥底で思っている。本当に優秀な人はマニュアルやチェックリストなんて使わない、複雑で危険な状況も度胸と工夫で乗り切っていまう、と思い込んでいる。「優秀」という概念自体を変えていく必要があるかもしれない。
著者 アトゥール ガワンデ
1965年生まれ。ブリガム・アンド・ウイメンズ病院内分泌外科 ハーバード大学医科大学院及び公衆衛生大学院準教授 1992年から93年まで、クリントン大統領の大統領選挙キャンペーンとホワイトハウスの上級アドバイザーを務め、2006年にはマッカーサー・フェローを受賞。 世界保健機関のプログラムである「安全な手術が命を救う」チェックリスト実践マニュアルの作成を主導している。 米誌「TIME」で2010年の「世界で最も影響力ある100人」に選出。
マインドマップ的読書感想文 smooth |
日経トップリーダー |
帯 シカゴ大学 教授 スティーヴン・D・レヴィット |
COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2015年 02月号 スクエア創業者兼CEO ジャック・ドーシー |
私をリーダーに導いた250冊 自分を変える読書 シバントス 代表取締役社長 ベルント・ウェーバー |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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序章 外科医の失敗談 | p.10 | 10分 | |
第一章 複雑すぎる! | p.24 | 12分 | |
第二章 チェックリストと爆撃機 | p.42 | 12分 | |
第三章 高層ビルの建て方 | p.60 | 18分 | |
第四章 災害への対処法、美味しい料理の作り方、そして私の仮説 | p.86 | 11分 | |
第五章 手術をもっと安全にする方法? | p.102 | 20分 | |
第六章 良いチェックリストの作り方 | p.132 | 18分 | |
第七章 世界規模のテスト | p.158 | 16分 | |
第八章 投資で成功する方法と、今求められている人材 | p.182 | 23分 | |
第九章 助かった! | p.216 | 6分 |