人は「相対性」で選択する
人間は、物事を絶対的な基準で決めることはまずない。他のものとの相対的な優劣に着目して、そこから価値を判断する。
『エコノミスト』誌のウェブサイトに次のような広告があった。
エコノミスト・ドットコム(ウェブ版)59ドル
印刷版の購読 125ドル
印刷版およびウェブ版のセット購読 125ドル
59ドルのウェブ版が125ドルの印刷版に比べて、得なのかはわからない。しかし、125ドルで印刷版とウェブ版をセット購読する方が、125ドルで印刷版だけを単独購読するより得なのははっきりわかる。
これを大学院生100人に選ばせたところ、ウェブ版16人、印刷版0人、セット購読84人であった。次に選択肢をウェブ版とセット購読の2択にすると、ウェブ版68人、セット購読32人となった。印刷版というおとりの選択肢がないと選び方は変わる。
私たちは、身の回りのものを常に他のものとの関係でとらえている。相対性は理解しやすい。しかし、相対性には、絶えず足をすくう要素がある。私たちは物事を比べやすいものだけを比べ、比べにくいものは無視する傾向がある。
無料の力
二つの品物から一つを選ぶ時、私たちは無料の方に過剰に反応してしまう事が少なくない。以下の2つのチョコレートを用意し、どちらか一方しか選べないという実験を行った。
リンツの高級チョコ 15セント
ハーシーの普通のチョコ 1セント
お客はリンツとハーシーの値段と品質を比較し、前者を73%、後者を27%買った。次に各チョコレートの価格を以下の通りにした。
リンツの高級チョコ 14セント
ハーシーの普通のチョコ 無料
どちらも1セント安くなっただけであるが、69%のお客が無料のチョコを選んだ。何かが無料になると、私たちは無料であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値があると思ってしまう。なぜなら、人間は失うことを本質的に恐れるからである。無料のものを選べば、目に見えて失うという心配がない。ところが、無料でないものを選ぶと、まずい選択をしたかもしれないという危険性が残る。だから、人は無料を選ぶ。
先入観や予備知識で判断する
予測によって私たちの経験に対する感じ方や捉え方は変化する。雰囲気が高級なら味も高級に感じる。
無料でコーヒーを配り、時々、容器を取り替える実験を行った。ある時は、美しいガラスの容器、ある時は白いスチロールカップ。しゃれた容器に入れて出した時のコーヒー好きの回答は、コーヒーをとても気に入った、結構な金額を払ってもいいという意見がはるかに多かった。
つまり、前もって美味しそうだと信じた時は、大抵やはり美味しいという事になり、まずそうだと思った時は、やはりまずいという事になる。