利益ゼロで生産を引き受ける戦略
ジョンソン・カーター社は、様々なヘルスケア製品を作っていた。シャンプー工場の件を任されている輸入業者のバーニーは、新しい製造業者を探し、帝王化成のオーナー陳姉さんに製品カタログを見せる。陳姉さんは「全部うちでつくれます」と答えた。帝王化成は、かつてプラスチック部品を生産していた。化粧品向けのボトルやキャップを手がけたのを機に、ヘルスケア製品の生産に軸足を移した。
交渉の末、工場はバーニーの要求をほとんど呑んだ。バーニーは、スムーズに話が運んだことに驚いた。そして「どうしてこんなに安くつくれるんだ?」と思った。
初めの2、3ヶ月にシャンプー工場でやるべき仕事の一つは清掃であった。ジョンソン・カーター社は以前のサプライヤーからバクテリアで汚染された荷を大量に受け取ったことがあった。
シャンプーに使う水は地元の水道管から引いており、その汚染が気になった。作業員は空のボトルを両手に3本ずつ、ボトルの口に指を入れて運んでいた。トイレには石鹸がなかったので、作業員は手を洗っていなかった。あるマネージャーは工場の床につばを吐いた。
陳姉さんに衛生の話をしたが、問題ないとし、強気であった。工場側が自分達の手で品質向上を図る意志がないのを知ってイライラした。
帝王化成で起こった品質問題の内、最初のひとつがラベリングに関するものだった。シャンプーボトル裏面の成分表示に誤りがあった。ジョンソン・カーター社は問題発覚と共にすぐにラベルを直すよう要求した。しかし、新しいボトルが生産ラインから届いた時、唖然とした。「まず古いラベルを使い切らなくては」。陳姉さんは確かにそう言った。製造元は、ほんのわずかなカネを省くために製品の質をごまかすのだ。
中国の工場は自分達が悪かったとはまず認めようとしない。不良品が見つかっても「工場を出た時は製品に問題はなかった」と言い、話は平行線をたどる。
ジョンソン・カーター社向けの製品出荷がますます大量になりつつある時、大口の顧客からボトルの材質が薄すぎるとクレームがあった。工場がひそかにボトルの成形型に手を加えて、プラスチック材の使用量を減らしていたのだ。調べた結果、工場は何ヶ月にもわたって品質を下方調整し続けていた。中国の工場は、時間をかけて、こっそり量を減らすとか、原材料の質をごまかすとかして、品質改悪に手を染める。
製造業者は初めに大きなチャンスをつかむため低価格も厭わないが、やがて一段一段と価格を上げる。製品の質を落とすと共に、価格引き上げを要求してくる。輸入元としては、今更サプライヤーを替えてやり直したくない。こうして、製造業者の立場が強くなっていく。