教育格差問題
低所得地域の子供たちの読解力は、四年生までに平均2〜3年遅れていく。半数が高校を卒業せず、卒業できた者の読解力と数学力は平均すると高所得地域の八年生(日本の中学2年生)程度の水準である。この格差に最も大きな影響を受けるのは、白人よりも貧困問題に直面する可能性が高いアフリカ系、ラテン系、ネイティブアメリカンの生徒たちである。
この格差は、アメリカの貧困基準以下で育つ1500万人を超える子供たち、その家族、社会にとって壊滅的である。高校中退者の失業率は、大卒者の3倍にまでのぼる。高校を中退した若い男性は、大卒者の47倍も服役率が高い。資源に乏しい地域の学校における有色人種の子供の比率は著しく偏っており、人種平等への深刻な障壁となっている。最近の調査によれば、学力格差による経済的影響は毎年数千ドル規模になるという。
20年前、政策立案関係者の間では、教育を改善するにはまず貧困を改善しなければならないという意見が大半であった。現実の中にも、低所得地域で子供たちのキャリアを変えているクラスや学校の例はわずかだった。
ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)
低所得地域の子供の成績が低いのは、生徒や家族が学業に無頓着なためではない。問題の根源は、低所得地域の子供が、高所得地域の子供であれば経験しないような困難を強いられている点にある。彼らには、貧困に伴う余分なストレスと重荷がある。
1990年、低所得地域の子供の教育改革のため、500人近い教師たちが、TFAから全国の教室へと派遣された。彼らの勤労意欲と生徒たちに対する献身ぶりは素晴らしかったが、一方で悪戦苦闘していた。そんな中で、生徒たちに次元の異なる影響を与えている数人の教師がいた。彼らを通じて、得られた教訓は次の通りである。
①成功は低所得地域でも可能
教師たちは、壮大な成績目標を達成するために生徒たちに自身が責任を持つような意欲を引き出し、生徒たちが確実に成功できるよう、どんなことでも献身的に取り組んだ。教師は生徒やその家族と協力し、変革的な教育を提供することができる。
②変革的教育にはリーダーシップが必要
変革的な成果をあげるには、低所得地域の子供たちの人生を変えることが自らの責任であり教育そのものであると認識し、その目的を達成するためには何でもするという決意を抱くリーダーが必要である。
③近道はない
成功への鍵は、カリキュラム、学校で過ごす時間、資金などの単発の任務ではない。極めて優秀な組織を際立たせるビジョン、文化、説明責任、マネジメント、現場のリーダーシップと能力が大切である。優秀な教師の発掘、育成には時間がかかり、近道はない。