専門家は、環境負荷が大きい20世紀型の経済を「ブラウンの経済」と呼び、21世紀に目指すべき自然環境と調和した新たな経済を「グリーン経済」と呼ぶ。
世界各国が力を入れ始めたグリーン経済の事例を紹介しながら、自然との共生についてを考えさせる入門書。環境と経済について、わかりやすく理解でき、今後のトレンドがわかります。
■増える環境負荷
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2007年報告書によれば、人類が化石燃料に依存し続けた場合、最悪で今世紀末の平均気温は4度上昇すると予測している。しかし、2010年のCO2排出量の増加は、この最悪のシナリオを上回る勢いで、さらなる気温上昇の恐れも出てきている。
観測史上、地球が最も暑かった年を並べると、トップ10の内、9年は2001年以降である。気温の上昇は北極圏で最も激しく、北極海の海氷が年々縮小している。今世紀末までに世界の海水面は最大1.6m上昇する可能性があるとされ、地球温暖化の影響はすでに現実のものとなりつつある。
地球環境問題は温暖化だけではない。深刻な熱帯林の破壊、過剰な農耕や家畜の放牧、水資源の浪費などによって、砂漠化と土地の劣化が進行している。また、多くの漁業資源が急速に減少し、海の魚が絶滅することまで懸念されるようになってきた。
■グリーン経済とは
地球環境問題と貧困の深刻化に代表される20世紀型経済の負の側面に目を向ければ、天然資源の利用効率を徹底的に高め、環境への負荷を可能な限り少なくし、自然と共生しつつ経済成長を目指すという、今求められている経済の姿が見えてくる。
風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーを基礎に、天然資源の消費量や温室効果ガスの排出量を可能な限り小さくする。その中で、人間の幸福を増大させることを目指すのが、グリーン経済の姿である。
■グリーン経済の事例
・ガイアナ、スリナム
南米大陸北東部の小国スリナムと西隣のガイアナなどには、広大な熱帯林が手つかずのまま残っている。人口一人当りの水資源や森林資源の量では世界のトップクラスにあるが、一人当りのGDPでは貧困国の一つである。両国は、石油や銅などの地下資源の開発、輸出と農林漁業に依拠したこれまでの経済から、豊かな森林資源とそれがもたらす「生態系サービス」に依拠した経済への転換を目指している。
注目しているのが、二酸化炭素を吸収し、気候を安定させるという生態系サービス。森林を保全することによって排出されずに済んだ二酸化炭素の量や植林によって増えた吸収量を算定して、排出量取引市場で売ることを認めようという考えを主張している。
・コスタリカ
コスタリカは、スリナムとガイアナと同様の考えを取り込んだ政策を90年代半ばという早い時期から進めてきた。政府は、二酸化炭素の吸収や生物種の保全、水資源保全といった森の機能を金銭的な価値に換算して、国民や観光客などの受益者が、環境保全に取り組む土地所有者に資金を払う制度を創設した。
かつて森林を伐採して生産され、外貨を稼いでいたコーヒーやカカオ、バナナなどの輸出にかわって主要産業となったのが観光業。同国のGDPの50%が観光業に関連する産業からのもので、観光業の大部分はエコツーリズムだという。
著者 井田 徹治
1959年生まれ。共同通信社 編集委員 大学卒業後、共同通信社に入社。本社科学部記者、ワシントン支局特派員(科学担当)を経て、現在は編集委員。環境と開発の問題がライフワークで、多くの国際会議を取材。
著者 末吉 竹二郎1945年生まれ。国際金融アナリスト 大学卒業後、三菱銀行に入社。同行取締役ニューヨーク支店長、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長を経て、2003年、国連環境計画金融イニシアティブ特別顧問。 講演などを通じCSRおよび環境問題の啓蒙に努める。
週刊 東洋経済 2012年 6/23号 [雑誌] |
エコノミスト 2012年 6/26号 [雑誌] |
日本経済新聞 |
エコノミスト 2012年 9/11号 [雑誌] ジュンク堂書店 池袋本店 高見 圭一 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
序章 見えてきた兆し | p.1 | 11分 | |
第1章 なぜグリーン経済か | p.19 | 19分 | |
第2章 世界のリーダーシップをとるのは誰か―中国、アメリカ、EUの動き | p.49 | 28分 | |
第3章 動き始めた世界 | p.93 | 39分 | |
第4章 グリーン経済への道 | p.155 | 30分 | |
終章 岐路に立つ日本 | p.203 | 6分 | |
おわりに―失われた二〇年の果てに | p.213 | 3分 |
地球に残された時間 80億人を希望に導く最終処方箋 [Amazonへ] |