大きすぎて潰せない
投資銀行が打つ博打の中でも特に冗談がきつかったのが、サブプライム住宅ローンを束ねてこねくり回して作ったCDOビジネスだ。こういった金融商品を作って売り捌くのが投資銀行の本来の仕事なのに、不動産バブルが永遠に続くと信じた銀行経営者は、自分でも大量に抱えていた。そして、金融危機が起きた。
しかし、銀行は市民の生活にとって必要不可欠な決済機能などの金融システムを担うので、簡単に潰れないような様々な法規制があり、万が一潰れそうになると大きすぎる銀行は、事後的に政府に救済される。つまり、銀行業とは、ギャンブルをして儲かればボーナスがもらえて、潰れそうになると税金で救済されるという、実に美味しいビジネスなのだ。
日本化する外資系の報酬体系
金融学者や監督当局は、悲惨な金融危機を引き起こした原因の一つは、トレーダーのインセンティブ構造にあったと考えた。うまく儲ければ多額のボーナスを受け取り、失敗しても最悪の場合でもクビになるだけ。これが過剰なリスクテイクを誘発したと言われた。そこで学者や監督当局は「トレーダーのインセンティブを金融機関の長期的な利益と一致させる」ことを要請した。
これに対し、外資系投資銀行は、ボーナスを減らして基本給に回し、分割払いとした。この分割払いの仕組みは、トレーダーをとにかく会社に残ろうとさせ、ヘッドハンターの保証を増やしたことで、ジョブマーケットの流動性を著しく下げた。そして、過去に約束したベテランの報酬の支払いのために、新人の報酬水準は低いままに据え置かれた。これは日本企業の年功賃金と同じ構造である。そして、現在のように外資系投資銀行を取り巻く経済環境が厳しくなる中、リストラを断行せざるを得なくなった。日本化したが、激しいリストラは「外資」のままであった。
金融コングロマリットの終焉
バブルをここまで大きくした原因は、低金利政策やロビー活動による歪な規制緩和である。本当は、政府高官や政治家にも責任がある。しかし、彼らは、ただ強欲な金融機関を厳しく規制しなければならないと考えた。ボルカー・ルール、バーゼルⅢである。
世界の金融規制は、大きすぎて潰せない銀行を、規制で縛って、めったなことでは潰れないようにしようという、金融保護主義の方向に行ってしまっている。
金融業の本質はリスクテイクである。現在の巨大金融コングロマリットを温存し、潰れそうになったら政府が救済し、それゆえに金融機関で働く者の報酬水準を公務員的なものにしよう、などという発想は社会主義そのものである。
こうして大きな金融コングロマリットでの仕事は、血気盛んな優秀な若者にとっては、退屈なものになりつつある。