東日本大震災において、日本企業が取り組んだ「無私の支援」、「利他の経営判断」とも言える7つの復興支援について紹介している。取り上げられている活動は次の通り。
①ヤマトホールディングス
現地での物流支援活動や、荷物一個につき10円で合計140億円を超える寄付を実施。
②富士フイルム
津波で海水を被った写真を洗浄する技術の開発と、大規模な洗浄ボランティア活動を実施。加えて関連会社が地域の除染作業に貢献。
③富士通
被災地域へパソコンやクラウドシステムを提供し、NPOと連携したプロジェクトを展開。在宅医療システムを構築。
④東邦銀行
被災直後から迅速に払い戻しを行い、他の金融機関との協力関係をいち早く構築。
⑤みちのりホールディングス(岩手県北バスグループ、福島交通グループ)
原発周辺地域から住民を移送し、ホテルを避難所として開放。観光を通じた復興を目指し、ボランティアツアーを実施。
⑥八木澤商店
全社員の雇用を維持するとともに、「地域全体経営」を構想。
⑦一般財団法人KIBOW
産官学のリーダーが発足させた震災支援活動。被災地のトップや有志たちを集めたイベントを数多く開催。「夜明け市場」など、被災地での新たな取り組みの発足につなげる。
震災復興の現場から、経営にとって大切なことは何かというヒントが得られる1冊。
■NPOとの連携に見えた企業の可能性 〜富士通
富士通は、システムの復旧活動にとどまらず、「災害支援特別チーム」を設置し、初期の段階からICT企業としての強みを生かした独自の支援活動を展開した。
富士通がNPOという新しいパートナーとの支援活動に成果をあげられた背景には3つの理由がある。
①ミドルマネージャーの信念ある行動
②ミドルマネージャーからの提案を即決し、現場に任せた経営層の判断力
③本業の強みである情報通信技術を駆使し、組織を横断した様々な利害関係者とつながる「場」を創出したこと
社会から本当に必要とされる企業というのは、自らの強みとアイデンティティを自覚し、その強みが発揮できる場やタイミングをしっかりと認識できている。
■全ては地域、お客様のために 〜東邦銀行
東邦銀行は、預金の残高照会ができない中で、被災者への払い戻しに応じた。残高が確認できない状態で払い戻しを行えば、当然、それ以上の払い戻しをしてしまう危険性がある。また、預金者本人の確認ができなければ、払い戻しすべきでない人に対し支払ってしまう問題も起こりうる。
しかし、通常のルールを貫けば、多くの人が困る。そこで頭取が発した方針は「事故を起こさないことよりも、被災者の役に立つことを優先して欲しい」というものだった。
震災で大きな被害を受けた東邦銀行は、自らも復旧を急がねばならないにもかかわらず、顧客のことを一番に考え続け、被災者支援を実施した。これほどまでに迅速かつ力強い取り組みができた理由は、次の2点に集約される。
①顧客との信頼関係の強さ
②頭取のリーダーシップと行員のフォロワーシップ
著者 田久保 善彦
グロービス経営大学院経営研究科研究科長 三菱総合研究所にて、エネルギー産業、中央省庁(経済産業省、文部科学省他)、自治体などを中心に調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールにて企画・運営業務・研究・コース、教材開発等を行なう傍ら、グロービス経営大学院及び企業研修におけるリーダーシップ開発系・思考科目の教鞭を執る。
TOPPOINT |
日本経済新聞 |
帯 経営共創基盤 代表取締役 冨山 和彦 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.3 | 2分 | |
第1章 徹底した現場主義とトップの決断力―ヤマトホールディングス株式会社 | p.13 | 14分 | |
第2章 津波を被った写真を洗う―「思い出」を救うプロジェクト―富士フイルム株式会社 | p.39 | 17分 | |
第3章 NPOとの連携に見えた企業の可能性―富士通株式会社 | p.69 | 15分 | |
第4章 全ては地域、お客様のために―地域経済を支える「信頼」―株式会社東邦銀行 | p.97 | 12分 | |
第5章 希望の灯となった地域の「足」と集いの「場」―株式会社みちのりホールディングス | p.119 | 18分 | |
第6章 雇用を守り、地域を想う―若きリーダーの信念―株式会社八木澤商店 | p.151 | 14分 | |
第7章 希望のかけ橋となる「場」を創る―一般財団法人KIBOW | p.177 | 14分 | |
おわりに | p.202 | 2分 |