企業の目的は顧客の創造
企業とは何かを理解するには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、目的は社会にある。したがって、企業の目的として有効な定義は一つしかない。顧客の創造である。
企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。この二つの機能こそ企業家的機能である。
実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。もちろん何らかの販売は必要である。だが、マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずと売れるようにすることである。
事業とは何か
あらゆる事業において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「われわれの事業は何か。何であるべきか」を定義することが不可欠である。
企業の使命として目的を定義するとき、焦点を合わせるべき出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。事業は、社名や定款や設立趣意書によってではなく、顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする欲求によって定義される。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。したがって、われわれの事業は何かとの問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。
顧客や市場について、企業の人間が知っていると考えていることは、正しいことよりも間違っていることのほうが多い。顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である。したがって顧客に聞き、顧客を見、顧客の行動を理解して初めて、顧客とは誰であり、何を行い、いかに買い、いかに使い、何を期待し、何に価値を見いだしているかを知ることができる。
企業が自ら生み出していると考えるものが、もっとも重要なのではない。特に企業の将来や成功にとって重要なのではない。顧客が買っていると考えるもの、価値と考えるものが決定的に重要である。事業が何であり何を生み出すかを規定し、事業が成功するか否かを決めるのは、それらのものである。
イノベーションの方法
イノベーションに成功する者は、右脳と左脳の両方を使う。数字を調べるとともに、人を見る。機会を捉えるにはいかなるイノベーションが必要かを分析をもって知る。しかる後に、外に出て、顧客や利用者を見、彼らの期待、価値、ニーズを知覚をもって知る。
イノベーションの戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。