若者と高齢者の世代間格差問題をズバズバと指摘。年金積み立て不足が、若者の将来の年金を食い潰す、終身雇用、定年延長が新卒採用の抑制につながり、若者の職を奪う、政治は多数派である老人にウケが良い政策しか行わない。
老人大国となった日本の制度には問題だらけ。このままでは若者の未来が奪われると警鐘を鳴らす。
■30代と高齢者で6000万円以上の格差
会社員が加入する厚生年金は、70歳と30歳で約5000万円ほどの差額が生じている。にもかかわらず、政府は将来70歳に支給開始年齢を引き上げるなんて事を言っている。つまり、5年分で約1000万円ほど我々がもらう年金はカットされる事になる。この格差はさらに拡大しかねない情勢だ。
また、年金だけでなく、医療介護も含めた社会保障に日本の財源も加えた「生涯を通じた純受益額」、つまり、国から受け取る「受益」と国へ支払う「負担」の差額にも格差が生まれている。60歳以上の世代が受け取る生涯の純受益額は4800万円以上のプラスだが、30代の純受益額は約1200万円のマイナスである。
■終身雇用の崩壊
終身雇用というのは世界でも日本にしか存在しない珍しい働き方だ。終身雇用は、少なくとも高度経済成長期にはいろいろと都合が良かったのも事実だ。毎年10%近く経済が成長し続けた時代、企業は労働者を囲い込み、長く働いてもらう事だけ考えていれば良かった。求められる人材も、言われた事をコツコツこなす優等生タイプの人材だった。
だが、1990年代以降、それは完全に裏目に出ている。新興国が急速に台頭する中、もはや企業は新人を採用して40年間雇い続ける余裕などなくなった。日本に「安く、そして大量に生産する」という役割は求められなくなった。こうなると、重箱の隅をつつくのが上手な優等生ばかりの組織は伸び悩む。
「正社員を一度雇ったら、定年まで雇い続けないといけない」というルールの下では、繁忙期にも企業はなかなか人を雇えない。仮に人を増やしてしまえば、暇になった時に重荷となるせいだ。一方、既存社員の残業であれば、いくらでも調整可能だ。ここに、日本の労働者が死ぬまで働く余地が生まれる。抜本的な対策としては、終身雇用自体にメスを入れる以外にない。
■「定年延長」で若者の職が減る
2012年8月、「高齢者雇用安定法の改正案」が可決・成立した。この改正により、企業は60歳を過ぎても継続して働く事を希望する人を全員雇用しなければならなくなった。事実上の65歳への定年延長と言っていい。
60歳で辞めるはずだった人をあと5年間雇うためにはお金がかかる。それは人件費全体の中から捻出しないといけない。といっても、日本の場合はなかなか賃下げができないので、必然的に新卒採用を減らすしかない。
そもそも、なぜ定年を65歳に引き上げねばならなかったのか。その原因は、1970年代には、人口増加を前提とした社会保障制度がいずれ行き詰まる事が明らかだったにもかかわらず、誰も見直そうとしなかったからである。代わりにツケを次世代に回し続けた。「年金カットします」とか「増税します」と言えば選挙で負けるが、問題を先送りすれば、誰からも文句は言われない。
今回の定年延長をもってしても、年金制度の存続には赤信号が灯ったままだ。複数の専門家が公的年金制度の2030年代での破綻を予想しており、支給開始年齢の引き上げはそれを数年ほど延命するに過ぎない。厚生労働省は既に、さらなる年金支給開始年齢の引き上げを検討中である。
日本にはカネがないから、年金支給開始年齢の引き上げ自体は、仕方がない。問題は、それが新卒採用抑制という形で若年層に跳ね返ってくる事だ。定年制度自体を廃止して、いつでもリストラできるようにするしかない。
著者 城 繁幸
1973年生まれ。ジョーズ・ラボ 代表取締役 大学卒業後、富士通に入社。人事部門にて新人事制度導入直後からその運営に携わり、同社退社後に執筆活動を始める。 『若者はなぜ3年で辞めるのか』は大ベストセラーとなる。雇用問題のスペシャリストとして、人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各メディアで発信中。現在、人事コンサルティング会社「Joe’s Labo」代表取締役を務める
週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.2 | 3分 | |
第1章 ますます拡大する世代間格差 | p.13 | 17分 | |
第2章 終身雇用が若者の未来を奪う | p.43 | 17分 | |
第3章 「クビ切り」でなぜ若者の職が増えるのか? | p.73 | 14分 | |
第4章 若者にツケを押しつける政治 | p.99 | 21分 | |
第5章 社会に存在する虚構と“空気” | p.137 | 19分 | |
第6章 若者自身の責任 | p.171 | 12分 | |
第7章 これから | p.193 | 10分 | |
あとがき | p.212 | 2分 |
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