私の「文章十戒」
①「ダ」文を用いるなかれ
「編集手帳」の文末に「・・・だ」は登場しない。「・・・である」と書いている。名文の定義は人によって様々だが「声に出して読んだ時に呼吸が乱れない文章のこと」と理解している。「・・・だ」には音読するとブツッ、ブツッと調べを裁ち切るところがある。
②接続詞に頼るなかれ
「だが」や「しかし」など、接続詞は文章の中に「仕切り」を設けて小部屋をつくるための道具である。「編集手帳」は短いコラムである。3畳ひと間のような空間に壁や階段をこしらえると、いかに醜悪な光景になるかがわかるはずである。
③大声で語るなかれ
表現の節約は難しいもので、ついつい身振りの大きい言い回しに走ってしまうのが普通である。座右の銘としている短い詩は次の通り。
「わが詩法」堀口大學 : 言葉は浅く 意は深く
④第一感に従うなかれ
プロの棋士は第一感を捨てる。自分が容易に思いつく指し手ならば、相手だって同じ手に気づいているはずである。プロのコラム書きも、第一感は捨てるのが普通である。そのためには、第二感、第三感を取り出せる引き出しを持っていなければならない。
⑤敬称を侮るなかれ
敬称とは難しいもので、「さん」付けが礼儀にかない、呼び捨ては無礼かと言えば、そうとも限らない。「さん」を付けてみる。「氏」に換えてみる。呼び捨てにしてみる。いちばん自然に聞こえる敬称を選ぶ。文章の中でわずかでも尊大な目つきをしようものなら、読者にそっぽを向かれるため、神経をつかう。
⑥刑事コジャックになるなかれ
新聞には、全社を代表して見解や主張を述べる欄が2つある。社説と一面コラムである。社説は読者の頭脳に訴えかけ、一面コラムは読者の胸に訴えかける。一面コラムは「読んでおいしい」文章を心掛ける。
⑦感情を全開するなかれ
新聞の読者には「判官びいき」の心情がある。感情の激した調子の文章に出合うと、書き手に共感を寄せるのではなく、その文章で非難されている人物に肩入れしたくなる。逆効果である。
⑧「変換」を怠るなかれ
コラム書きも言葉選びには気を使う。「考えすぎ」を「思い過ごし」と言い換えて、効果を比べてみる。「ミス」を「失策」「落ち度」「手抜かり」と順番に言い換えて、文脈にふさわしい言葉を選ぶ。
⑨遊びどころを間違うなかれ
新聞コラムには、宗教、貧富、政治などのタブーはなく、たとえ朝の食卓に不向きな話題でも必要とあれば取り上げなくてはならない。但し、表現や構成にはいつも以上に気を配らねばならない。
⑩罪ある身を忘れるなかれ
普通の記事ならば見出しで判断し、読まずに素通りする事もできる。一面コラムには見出しがない。読み始めて何がテーマか分かった時には、すでに傷を負っている。思えば、罪な欄である。