統計リテラシーを持つことで、勘や経験に頼らない判断力を身に付ける事ができる。そもそも統計学とは何かという基本的なことを一通り知る事ができる1冊。
■統計学が最強の学問である
統計学が最強の武器になるのは、どんな分野の議論においても、データを集めて分析する事で最速で最善の答えを出す事ができるからである。もしあなたの会社に十分なデータがあるのであれば、データを分析せずに勘と経験だけに基づく議論を重ねるのは時間のムダだ。
間違いの許されない選択において最善の答えを出すために、人類は19世紀のロンドンで、史上はじめて統計学の力を使って万単位の人命を奪う原因に戦いを挑んだ。「疫学の父」と呼ばれるジョン・スノウは、コレラの大流行に対し、以下のシンプルな方法をとった。
・コレラで亡くなった人の家を訪れ、話を聞いたり付近の環境をよく観察する
・同じような状況下でコレラにかかった人とかかっていない人の違いを比べる
・仮説が得られたら大規模にデータを集め、コレラの発症/非発症と関連していると考えられる「違い」について、どの程度確からしいか検証する
この調査によって、スノウはコレラ感染の原因が使っている水道会社の違いである事をつきとめ、問題の水道会社の利用を止めさせた。スノウの考え方は、徐々に医学全域において欠く事のできない重要なものとなっていった。
■「ランダム化」という最強の武器
統計学が「最強の学問」となったのはその汎用性の高さ、すなわち政治、教育、経営、スポーツでも、最速で最善の答えを導けるところにある。そうした統計学の汎用性は、どんな事の因果関係も科学的に検証可能な「ランダム化比較実験」によって支えられている。
現代統計学の父、ロナルド・フィッシャーは、英国婦人が「紅茶を先に入れたミルクティ」と「ミルクを先に入れたミルクティ」との違いがわかると言ったのを科学的に実験した。フィッシャーは、ティカップをずらりと並べ、婦人に見えない場所で2種類の違った淹れ方のミルクティを用意した。そしてランダムな順番で婦人にミルクティを飲ませ、確率を計算した。
どのような手順で実験して、10回中何回成功すれば科学的に実証できたと考えられるのか、という事を考えた人間はフィッシャーの前には誰一人いなかった。このうち最も重要なアイディアが「ランダム化する」という部分なのである。ミルクティに限らず、この考え方を応用すれば、大概のペテンは見破る事が可能である。フィッシャーのランダム化比較実験がなければ、人類は「誤差のある現象」を科学的に扱う事はできなかったのである。
ランダム化比較実験は過ちを犯す可能性を小さなコストとリスクでつぶす事ができる。適切なランダム化さえできれば、我々はこの世のあらゆる因果関係を科学的に検証し、利用する事ができる。
■ランダム化できなかったらどうするか?
ランダム化は、制御自体が不可能な場合、仮に可能であっても倫理的に許されない場合、関係者からの感情的な反発が予想される場合には、利用できない。この問題に対し、統計学では、より高度な手法を用いて、可能な限り条件を揃えた「フェアな比較」を利用する。そのための最も重要な枠組みの1つが回帰分析である。
データ間の関係性を記述する、あるいは一方のデータから他方のデータを予測する数式を推定するのが回帰分析という考え方である。但し、回帰分析によって得られた「最もそれらしい予測式」だけでは、依然として誤差が存在する。
そこで統計学に持ち込まれたのが「真値」というアイディアである。「無制限にデータを得ればわかるはずの真に知りたい値」を真値と呼び、たまたま得られたデータから計算された統計量がどの程度の誤差で真値を推定しているかを数学的に整理する事で、無限にデータを集める事なく適切な判断ができるという考え方である。
単に一番もっともらしい値を推定するだけでなく、それが真値に対してどの程度の誤差を持っているかを考えれば、少なくとも間違った判断を犯すリスクは減らす事ができる。
著者 西内 啓
1981年生まれ。統計家 東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はデータに基づいて社会にイノベーションを起こすためのさまざまなプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および戦略立案をコンサルティングする。
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章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
第1章 なぜ統計学が最強の学問なのか? | p.1 | 24分 | |
第2章 サンプリングが情報コストを激減させる | p.35 | 15分 | |
第3章 誤差と因果関係が統計学のキモである | p.57 | 29分 | |
第4章 「ランダム化」という最強の武器 | p.99 | 25分 | |
第5章 ランダム化ができなかったらどうするか? | p.135 | 47分 | |
第6章 統計家たちの仁義なき戦い | p.203 | 52分 | |
終 章 巨人の肩に立つ方法 | p.277 | 17分 |
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