サイバーエージェント藤田社長が、ネットバブル崩壊による危機、ライブドア事件、アメーバ事業の立ち上げを語る。
新しい収益の柱として、ついにアメーバ事業に可能性を見出す。しかし、当時は、投資家からも社員からも、誰からも期待されていなかった。逆風の中でゼロから事業を立ち上げる苦労と熱い想いが綴られています。
■メディア企業を目指して
ネットバブルが崩壊して株価低迷に喘ぐサイバーエージェントは、2001年「村上ファンド」による買収交渉により、存亡の危機を迎えていた。会社を手放す覚悟を決めた時、楽天の三木谷社長に助けてもらう形で危機を乗り越えた。
買収を免れてしばらく経った頃、投資家の前で「我が社はメディア企業を目指しています。現在は将来への先行投資をしているため赤字なのです」という説明をしていた。そんな説明に対し「いつまで投資期間なのですか?」といった言葉を投げつけられていた。
当時売上を構成していた広告代理事業だけでは、どう頑張っても営業利益率5%までしか見込めなかった。代理店手数料では、ネット企業の最大の特長である収穫逓増型にならない。当時、収穫逓増型モデルを実現していたのは、ヤフーやGoogle、楽天など、インターネットの「メディア事業」だった。ネット業界で大きくなっていくためには、何より強いメディアを持つ事が必要不可欠な条件だった。
■全ての創造はたった一人の「熱狂」から始まる
私が主力事業に育てようと目論んでいたアメーバは赤字の上に、参入のタイミングは最後発だった。これと言った斬新なサービスがある訳でもなく、株式市場からは全く期待されていない状況だった。
アメーバは社内でも不人気部署だった。社長が力を入れている事はみんな知っていたが、誰も負け馬には乗りたくない。私はその頃、社内の誰よりもアメーバブログを更新し、使っているという自負があった。ユーザーとしてアメーバのダメなところや改善して欲しいところについて、一番わかっていた。しかし、アメーバ事業部の中では、本部長すらもほとんど自分のブログを更新していなかった。そこで働く社員たちがアメーバに対する愛情も誇りもない状況であることに気づかされた。
2007年、アメーバの幹部を総入れ替えする事に決めた。「アメーバの事業本部長はおれに代わる。あと2年でダメだったらおれは責任とって会社を辞める」と話した。当時は誰一人として本当にアメーバが屋台骨になるとは考えていなかった。
雑音に惑わされず、ユーザー視点を貫く強いリーダーが必要だった。誰よりもアメーバを使っていた私が、ユーザーにとって何が正解なのか、正しく判断する必要がある。「収益は一切見ない」と宣言し、ひたすらページビュー数を増やす事だけに集中した。
「これどうやって稼いでいくのでしょうか?」という言葉を聞くと、お前は何を言っているんだという顔をしてみせた。知らない広告枠が新しくできていたのを発見した時には「誰がやったんだ、これは!」と怒った。ページビュー数を伸ばすためにわざと不便な画像遷移を導入しようとした企画には、本末転倒だと激怒した。
ずっと伸びなかったアメーバのページビュー数が、徐々に角度を変えて伸び始めた。アメーバはうまくいく、必ず見返してやると雑念を振り払うように、ただひたすらアメーバのプロデューサー業にのめり込んでいった。
アメーバが勢いよく伸び始めた最初の理由は、芸能人ブログだった。本格的に芸能プロダクションに営業活動をしている会社がない事に目をつけていた。
「アメーバモバイル」「アメーバピグ」「芸能人ブログ」だけでなく、様々な新機能をリリースしていった。2009年9月、アメーバ事業部はついに黒字化した。結果的に「何がアメーバの転換点になったのか?」と尋ねられれば、幹部3人を更迭した事だった。あの時点で、アメーバが今日のような姿になる事を信じていたのは世界で私ただ一人だった。誰も相手にしない、たった一人の孤独な熱狂だった。しかし、私が熱狂していなければ、アメーバはこの世に存在していなかった。
著者 藤田 晋
1973年生まれ。サイバーエージェント 代表取締役社長 サイバーエージェントを創業し、2000年当時、史上最年少で上場を果たす。ほぼ同時期に起業した楽天の三木谷浩史氏や堀江貴文氏らとの親交がある。
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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 01月号 [雑誌] |
THE 21 (ざ・にじゅういち) 2013年 07月号 [雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
プロローグ | p.5 | 3分 | |
第1章 暗闇の中で | p.11 | 24分 | |
第2章 土台作り | p.53 | 22分 | |
第3章 追い風 | p.91 | 29分 | |
第4章 手痛い遅れ | p.141 | 12分 | |
第5章 ライブドア事件 | p.161 | 16分 | |
第6章 逆風 | p.189 | 20分 | |
第7章 進退をかけて | p.223 | 33分 | |
第8章 熱狂の後 | p.281 | 6分 |
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