大失態
サービスを早く出したい、市場に一番乗りしたい、と気持ちが急いた。そうだ、仲間だ、仲間を見つけて会社を作らなくてはと、マッキンゼーの仲間を口説き落とした。社名は「DNA」に「eコマース」のeを挟んでDeNA。インターネットを用いて売りたい人と買いたい人の距離をぐっと縮めるような流通革命を起したい、そんな遺伝子を広げよう、という気持ちを込めた。
ソネットが全面的にバックアップする、という泉二社長の言葉は心強かった。ただ、ソニー色に偏った印象を避けるために、リクルートにも資本提携を申し入れた。ソネット、リクルート、経営陣で5000万円ずつ出資して会社を作る事が決まった。
サービスづくりの方は徹夜続き。なんとか仕様決めが終わり、明日からテストというところまで漕ぎ着いたと思った時、大変な事が起こる。開発が完了したはずのその日に、実際はコードが1行も書かれていない事が発覚したのだ。開発の指示は出していたが、確認を怠っていた。ヤフーが1ヶ月前にネットオークションを始めてしまい、焦りが極限に達している中での大失態だった。
NTVPの村口さんがすぐに来て、パニック状態に陥った経営陣に代わって陣頭指揮をとってくれた。「天才エンジニアを呼ぼう」と次々に電話を始めた。やってきたインフォテリアの北原副社長が「やってみましょう」と言ってくれた。
そうだ、掘った穴が大きいほど面白いステージになる。そう思ってやるしかないのだ。
成長
急ごしらえのシステムはかなり脆弱なものだったが、ビッダーズが誕生した。同じ目標に向かって全力を尽くし、達成した時の喜びと高揚感をDeNAの経営の中枢に据えようと決めた瞬間だった。
ビッターズは、ヤフー、楽天に先行され、最も後発の参入となってしまう。MSNなど大手ポータルサイトとの提携や、積極的なマーケティング施策を矢継ぎ早に実施した。しかし、ヤフオクとの差は縮まらない。赤字は積み上がる一方で、資金は減る一方だ。
預金残高が減少する中、約半年間、金策に走り回った。ITバブル景気は2000年にはじけ、ネット系企業の資金調達環境は冷え込んでいた。結局、既存の大株主に泣きつき、ソネット、NTVP、マッキンゼーの先輩から計5億7000万円を調達した。この資金がなければ、今のDeNAはない。
値上げしたヤフオクに対し、ビッターズは値下げでユーザー数を急拡大させたが、敗北を悟った。業界No1を諦め、ショッピング事業の強化により黒字化を優先する事になる。起業から4年、黒字化を達成し、携帯向けオークションサイト「モバオク」へと大きく舵を切っていく。モバオクの爆発的成長は異次元だった。時代の波をとらえ、タイミングに合ったものを一番使いやすい形で出す。これを実現してNo1になった者だけが、拡大の良循環を手にする。