TEDで再生回数200万回を超える人気の経済学者が、「人間が信頼を生み出す」原理を解説しています。そして、人類を繁栄に導くのはこの「信頼」であり、どのようにすれば、その信頼を増幅させることができるのかを紹介しています。
■道徳的な分子
脳と血液の両方で見られる化学伝達物質「オキシトシン」こそ、道徳的な行動のカギである。オキシトシン・レベルが上がると、赤の他人に対してさえも、気前のいい、思いやりのある対応をするようになる。この道徳的な分子を始動させるには、信頼の合図を送るだけでいい。信頼を込めて人と接すると、相手はオキシトシンが急増し、あまり関与をためらったり人を騙したりしなくなる。私たちの研究からは、1日8回ハグすれば、今より幸せになれる事がわかっている。
オキシトシンは小さな分子で、脳の中で信号を送る神経伝達物質と、血液中でメッセージを選ぶホルモンの両方の働きを持つ。このオキシトシンは、陣痛の始まりと授乳用の乳汁の流れを制御し、動物のあらゆる種類の愛着を調整している。モグラやネズミの実験では、母親のオキシトシンを抑えると、その母親は子どもたちを避けた。オキシトシンの分泌を促すと、母親は自分以外の子どもも育てた。
■繁栄する社会を築くために必要な4つの要因
①コミュニケーションの強化
「善循環」の輪を繁栄に向けて回し続ける信頼と共感を育み、示すためには、私たちは幅広く交流し、自分たちと似た外見や考え方の人以外とも接しなくてはいけない。
ソーシャルメディアが爆発的に広まり、今ではツイッターで「社会的スナッキング」をしたり、恋人のフェイスブックのページをチェックしたりするだけで、信頼を深めるような種類のオキシトシンの急増を引き起こす事ができる。
②ポジティブな形で多様性を直接体験する
自分の家族や、文化的あるいは地理的「部族」以外の人とポジティブなかたちで直接体験を持つ事も、もっとオキシトシン主導で向社会的で繁栄する社会を達成するために欠かせない。
多様性があれば考え方や物事のやり方の幅が広がり、革新を促し得ることも、研究から明らかになっている。その上、受容はさらなる受容を招く。
③手続きを公正化する
信頼は、ひいては繁栄の度合いは、収入の大きな格差が人々の間に壁を作る時には必ず下降線をたどる。貧しさも信頼を強力に抑え込む。研究からは、社会の最貧層に対する短期的な所得援助が信頼を高め、万人に恩恵をもたらす事がわかった。
④つながりを促す「ソフトウェア」、人文科学を活かす
教育の質を向上させればコストをかけずに繁栄の度合いを高められる事がわかっている。教育の質が上がれば「善循環」の輪を回し続けるのに必要な他の事柄の実に多くが強化され、最終的には経済的な恩恵が投資のコストをはるかに上回る。
著者 ポール・J・ザック
クレアモント大学院大学 経済学・心理学・経営学 教授 クレアモント神経経済学研究センター所長(2002年に自身が創設)。ロマリンダ大学医療センター臨床神経学教授。 2004年、人間が相手を信頼できるか否かを決定する際に脳内化学物質の「オキシトシン」(oxytocin)が関与していることを発見し、以来、オキシトシンが人間のモラルや社会行動に与える影響の研究に邁進。論文も数多く、行政機関、警察、経済、医学、心理学、宗教界等の関心を集めている。
帯 科学ジャーナリスト マット・リドレー |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
序章 ヴァンパイア・ウェディング | p.11 | 12分 | |
第1章 経済は「信頼」で繁栄する | p.27 | 28分 | |
第2章 「利他的な遺伝子」は存在するのか? | p.61 | 24分 | |
第3章 群れと社会と「共感」と | p.91 | 26分 | |
第4章 なぜ競争を司る「テストステロン」は暴走するのか? | p.123 | 26分 | |
第5章 「欠乏」欠陥症と虐待 | p.155 | 29分 | |
第6章 信仰と儀式、そして性 | p.191 | 28分 | |
第7章 モラル・マーケットプレイス | p.225 | 24分 | |
第8章 長く幸せな人生を | p.255 | 28分 |
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