日産GT-Rをつくったカリスマエンジニアが、ヒットを生み出すためには常識を打ち破ることが大切だと語る。日産のレース監督時代に、どのように全戦全勝できたのか、欧州でも評価されたプリメーラはどのようにできたのか、GT-R開発の舞台裏では何が行なわれていたのか。
車のみならず、ものづくりで大切なこととは何かヒントがつまった1冊。
■非常識な本質
「こういう時には、こうすべきだ」という常識にとらわれた考え方とやり方を捨て、常識の壁を壊し、その先の思考の盲点に潜む「本質」をつかもうと意識すること。本当にやりたかったこと、本当の自分の希望は、常識の壁をぶち壊した先にある。
1995年、スカイラインGT-Rでル・マン24時間耐久レースに挑戦する事になった。参加していた全車がスターティンググリッドで隊列を組んだ時、愕然とした。マクラーレンF1GTR、フェラーリF40といったクルマが居並ぶ中で、生産車用の直列6気筒エンジンを載せたGT-Rがみずぼらしく映った。それはレーシングカーの中に市販車が紛れ込んだようで、居心地の悪い気分だった。
どうすればGT-Rを欧州車よりも速く走れるようにできるのか? もう1度原点に戻り、タイヤのグリップ1つからクルマを見直した。そして、普通とは逆の発想をした。あえて「非常識な本質」を探し求めた。
■ヒット商品は99%の反対から生まれる
日本車というのは世界では確固としたブランドとして確立されている、と思っている人は多い。輸出されている日本車は、現地でステータスをともなって乗られているのか?
実際に調べてみると、現地の中産階級以上の人の日本車に対する関心は極めて薄いものだった。日本車が買われている理由のほとんどが「安くて壊れない」というもの。当時の日本車なんて、そんな評価にすぎなかった。
1984年、現地調査のためにヨーロッパで、輸出用の「日産オースター」を現地に持ち込み、走行テストをした。欧州車と乗り比べて、オースターがフォルクスワーゲンやベンツに比べてブリキのオモチャのように思えて仕方がなかった。欧州車にはカタログ的な機能性だけではなく、クルマ全体のコーディネートテクノロジーのようなものがあった。ヨーロッパの自動車メーカーは「クルマは、お客様の感性で評価されるもの」という考えに貫かれている。ヨーロッパ人が教科書として扱うような日本車を作るんだと強く心に誓った。
クルマの仕事をはじめてから、技術者が書いたマニュアルというものを一度も読んだ事がない。そこに書かれているのは方法論であり、「過去」「昔」だからである。人真似ではない新しいモノをつくろうと思ったら、何よりも感性と想像力が求められる。どんなに豊富な知識があったとしても、感性が豊かでなかったら、その知識が新しい知識や性能に変わらない。
プリメーラの提案書を出した時の社内の反応は、実に冷ややかなものだった。「ノーマルエンジンしかない、しかもサイズも価格も中途半端なクルマが売れるはずがない」
当時の日産にはサニーという主力製品があり、バリュエーションもツードア、フォードア、クーペ、ワゴン、ターボ、二輪駆動、四輪駆動と揃っていた。
一方、プリメーラは1600ccと2000ccのNAエンジンを搭載した二輪駆動のフォードアセダンのみ。それでも、プリメーラは売れるという確信があった。
新しい商品やヒット商品は、発想が過去や現在の常識に留まったままの社内の人間が反対するからこそ生まれる。プリメーラは、社内の大方の予想に反して大ヒットした。ヨーロッパでも話題を呼び、ヨーロッパの自動車メーカーがプリメーラを研究の対象として購入した。
著者 水野和敏
1952年生まれ。元・日産自動車『GT-R』開発責任者 1972年日産自動車に入社。「P10 プリメーラパッケージ」や「スカイラインGT-R(R32 型)」の 新規パッケージの提案と開発などに従事。 1989年ニスモに出向しレーシングチームの監督兼チーフデザイナーに就任。国内耐久選手権3年連続チャンピオンおよび1992 年デイトナ24 時間レース総合優勝獲得(92 年は参戦全レース全勝)。 1993年に日産自動車へ復職し、FM パッケージ「スカイライン(V35 型)、フェアレディZ(Z33 型)」、PM パッケージ「日産GT-R(R35型)」など、乗用車系・スポーツ系車種を中心に開発責任者として活動。 日産GT-R においては、 カルロス・ゴーンCEO 直轄のもと「ミスター・GT-R」として 企画・開発・生産・営業・収益・品質・新規販売網展開等プロジェクトにかかわる。 2013 年日産自動車退社後も、各媒体からの取材やファンからの現場復帰を願う声が引きも切らず、現在はセミナー講師や「生きる力プロジェクト」の発起人として活動中。
TOPPOINT |
日経ビジネス Associe (アソシエ) 2013年 10月号 [雑誌] |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.1 | 4分 | |
第1章 非常識な本質 | p.15 | 18分 | |
第2章 はみ出し者が生きる道 | p.55 | 12分 | |
第3章 「お客様は神様」の本当の意味 | p.81 | 14分 | |
第4章 世界一を目指した型破りな開発 | p.113 | 25分 | |
第5章 答えはいつも会社の外にある | p.169 | 13分 | |
第6章 ブランドの正体 | p.197 | 14分 | |
おわりに | p.229 | 7分 |