ウェブの情報空間がリアルの空間に流れ込むことで生じる問題について書かれています。リアルとバーチャルの境界が崩れ、現実空間の意味が薄れる事によって、社会や個人が分断されていく社会の形を論じています。
■現実の多孔化
スマートフォンの登場と普及によって、ウェブは手の中の小さな端末からアクセスするものになった。その事によって私達は、バーチャルとリアルの対立ではなく、目の前の現実と、画面の中にあるもう1つの現実との間にどう折り合いを付けるべきかについて、悩まなければならなくなった。例えば、友人との会話の場面。私達は相手とお茶を飲みながら話している場面で、スマートフォンからソーシャルメディアにアクセスして、別の友人の近況を知り、また仕事のメールを受信する事がある。
現実空間の中にウェブが入り込み、ウェブが現実で起きている事の情報で埋め尽くされるようになると、かつて「現実の空間」だと思われていた場所に、複数の情報が出入りし、複雑なリアリティを形成している事に気付く。この状態を「現実の多孔化」と呼ぶ。
現実が多孔化し、それを通して様々な人の思惑がばらばらに入り込んでくるようになる時、私達は「この現実」における他者との共生関係をどのように維持すべきかという2つの課題にぶつかる。
①物理的な距離の近さと親しさの関係が不明瞭になる
ex.恋人とのデートの最中に、頻繁にソーシャルメディアにアクセスする
②ある空間の中に生きる人々が、ある「社会」の中に生きているという感覚が希薄化する
ex.物理空間に情報の関係性が入り込み、セレモニーや式典行事の意義が薄れる
情報通信技術が空間の意味を書き換える事で生じる現実の多孔化は、人々の間で空間の意味を共有する事を困難にしていく。この多孔化による分断は、単に個人の間のすれ違いだけではなく、社会全体にも深刻な亀裂を生んでいく。この分断に対し、私達はが取るべき方策の1つが、多孔化していく現実の空間全体を上書きするような情報で、実際には風化していく空間を、あらためて儀礼化するという道だ。いわば「アニメ聖地巡礼」で行われている事を、より意図的にしようという試みだ。
著者 鈴木 謙介
1976年生まれ。関西学院大学社会学部准教授 専攻は理論社会学。情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論研究を架橋させながら独自の社会理論を展開している。 著書『カーニヴァル化する社会』以降は、若者たちの実存や感覚をベースにした議論を提起しており、若年層の圧倒的な支持を集めている。現在、TV、ラジオ、雑誌などを中心に幅広いメディアで活躍中。
日本経済新聞 評論家 宇野 常寛 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.9 | 7分 | |
第一章 ウェブが現実を侵食する | p.21 | 31分 | |
第二章 ソーシャルメディアが「私」を作る | p.63 | 28分 | |
第三章 ウェブ社会での親密性 | p.101 | 30分 | |
第四章 多孔化現実の政治学 | p.143 | 30分 | |
第五章 多孔化した社会をハッキングする | p.183 | 21分 | |
第六章 「悲劇の共同体」を超えて | p.211 | 27分 | |
おわりに | p.247 | 4分 |
リトル・ピープルの時代 [Amazonへ] |
情報革命バブルの崩壊 (文春新書) [Amazonへ] |
ネットビジネスの終わり (Voice select) [Amazonへ] |
膨張する監視社会 個人識別システムの進化とリスク [Amazonへ] |
デジタルネイティブの時代 なぜメールをせずに「つぶやく」のか (平凡社新書) [Amazonへ] |
モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会 [Amazonへ] |
社会学への招待 [Amazonへ] |
出会い―相互行為の社会学 (ゴッフマンの社会学 2) [Amazonへ] |
近代とはいかなる時代か?―モダニティの帰結 [Amazonへ] |
人間の条件 (ちくま学芸文庫) [Amazonへ] |
公共性の喪失 [Amazonへ] |
情報とプライバシーの権利―サイバースペース時代の人格権 [Amazonへ] |
ポスト・プライバシー (青弓社ライブラリー) [Amazonへ] |
リアルタイムウェブ-「なう」の時代 (マイコミ新書) [Amazonへ] |
自由を考える―9・11以降の現代思想 (NHKブックス) [Amazonへ] |