ロングテールは成立していない?
ネットビジネスにおいて、多くの人が信じる法則に「ロングテール」というものがある。これまでは物流と在庫の関係から、ビジネスを「売れるもの」に集約した方が良い、とされてきた。しかしネットでの物販が中心の世界では、販売数量が少ない商品でも、検索などの機能によって「発見」し、購入する事ができるため、全体の売上で考えると,売上の多い製品だけでは考えられない成果を挙げられるというものだ。
だが、実際にネットビジネスをしている人々の間では「ロングテール否定論」が増えている。「販売の偏りはむしろ酷くなっており、売れないものは全く売れない。尻尾は長くなるどころか短くなり、尻尾が切れるまでの時間も短くなっている」と主張する人が増えている。
App Storeのアプリの登録本数は、2013年5月で90万本を数える。だが、90万本のアプリの内、少なくとも8割程度は、ほとんどダウンロードされる事のない「ゾンビ」とも呼ばれる存在になっている。名前が知れていて著名なコンテンツを抱えている会社のコンテンツが強く、全く新しくて口コミで広がっていくようなアプリはなかなかヒットしづらいという事である。
書籍についても似たような現象がある。電子書籍の販売実績は、かなり「売れる本」に偏っており、紙でも売れない本は電子書籍でも全く売れていない。電子書籍ストアにひっそりと置かれているだけでは、誰もその存在を認識できないからだ。
ネットで行動する場合、情報の窓口はさほど多くない。だからこそ、リアルに存在するマスの情報の影響が、より極端な形で反映される事になる。すると、多様な情報に基づく消費行動であるロングテールは成立しづらくなっていく。
バーチャル・フェンス
情報が増え、消費者の判断も多様化した結果、商品やサービスの情報が実際には顧客に届きにくくなっている。どこに顧客がいるかを分析し、顧客のいる場所に情報を届けるのがマーケティングの1つの本質だったわけだが、それは単純に成立しづらくなってきた。だからこそ、位置情報や行動データの解析による確度の上昇が注目されるのだろう。ネット全体を「空間」に見立てて、人々の嗜好や行動をベースに緩やかかつバーチャルなフェンスを作れば、それは、ジオフェンシングと同様の価値を持つ事になる。
ネットでは人々の視界が狭くなる以上、その人が属するコミュニティに合わせ、情報をわかりやすく提示する必要が出てくる。人々はそれを「欲していない」のではない。それがあるかどうか、どこで買えるかを知らないだけだ。データの活用によって思い込みを減らし、フェンスを構える場所を検討し、見込み顧客を誘導していく事が求められている。