高収益だが、大企業病に陥っていたヤフーの経営改革を紹介している1冊。「爆速」という言葉を掲げて、次々に新しい戦術をうっていくヤフーは、どのようにして生まれ変わったのか。
■大企業病に陥ったヤフー
発端は、孫正義主宰の社内大学「ソフトバンクアカデミア」である受講生が披露した前代未聞の発表だった。「私が今、非常にもったいないと思っているもの。それはヤフーの経営体制です!」 登壇者の若者は唐突にこう叫ぶと、孫を直視し、公然とヤフー批判を始めたのである。若い男性は、ヤフーの元社員だった。
ヤフーが今も国内インターネット企業の盟主である事に変わりはない。広告、オークション事業を柱に、収益性、成長性、どれを取っても非の打ちどころがない企業である。しかし、外からの評価とは裏腹に、ヤフーで働く一部の社員は強い危機意識と閉塞感にさいなまれていた。まず何よりもスピード感が失われている。かつては「まず始めてみる」という勢いを大切にする社是だったが、今は何を始めるにも手続きが多く,時間がかかる。その結果、SNSやスマートフォンなど、新サービスの投入で後手に回る状況が続いていた。
特に問題なのは、経営陣の考え方が現場から見えてこない事だ。一体、我々はどこに向かっていくのか。結果として、やる気のある優秀な社員が次々とヤフーを去った。
宮坂流のマネジメントの本質。それは「原理原則で動かす」だ。つまり、意思決定をする判断のよりどころとなるルールを公開し、社員に周知させた上で事業を進めるというスタイルである。宮坂は管理型のマイクロマネジメントではなく、社員が自律的に動く、ルールに基づく権限移譲型のマネジメントを目指した。
それは、例えば「ヤフー番付」という仕組みに見て取れる。これは、150以上あるヤフーのサービスを、収益やページビューといった定量的な情報を基に階層化した格付け制度である。順位を決める基準は3つ。第1に利益であり、そのサービスがどの程度利用者に使われ、浸透しているかを見る。第2に利用頻度。サービスがどの程度利用者に使われ、浸透しているかを見る。そして最後が課題解決度。市場に類似の競合サービスがあった場合、どのくらいの市場シェアを占めているかを見る。
情報は日々集計され、毎月順位が発表されるが実際に順位が入れ代わるのは、年に2回。社員は全員、このルールの下に評価を受ける事になる。サービスは5段階に分類され、Jリーグのようなピラミッドが形成される。番付のポイントは、順位付けに加味する要素を柔軟に変えられる点にある。例えば、全社としてスマートフォンに力を入れていくと考えた場合、番付の評価基準に「スマートフォンのページビュー」や「アプリのダウンロード数」などを加える。自分たちが力点を置きたい要素の比重を高めれば、おのずと全社のサービスの方向がそちらに向くのだ。
番付によってサービスの序列が決まると、上位のサービスとそれ以下で明確に待遇の差が表れる。例えば、番付で5位以内に入ると、サービスの責任者は、社内から好きな人材を引き抜く事ができる。優秀な社員を戦略的に重要なサービスに集める事で、さらなるサービスの強化を図る。逆に、人材を引き抜かれる番付下位の担当者は厳しい局面に立たされる。人材は減り、サービスの品質劣化という負の連鎖を断ち切るための施策を打たなくてはならない。起死回生の戦術がなければ、サービス停止に追い込まれる可能性もある。現時点で成長の可能性がないと判断されたものは終了するルールになっており、すべての明確な原理原則に沿って運用されていく。
著者 蛯谷 敏
1977年生まれ。日経ビジネスDigital編集長 大学卒業後、日経BP社入社。入社後は通信業界誌「日経コミュニケーション」の記者として通信業界を担当し、2006年から「日経ビジネス」に所属。2012年9月より現職。
日本経済新聞 富士通総研主任研究員 湯川 抗 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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まえがき | p.1 | 9分 | |
Chapter1 革命前夜 ヤフーが一番つまらない! | p.21 | 18分 | |
Chapter2 電撃指名 53番目の社員に託された命運 | p.53 | 19分 | |
Chapter3 改革始動 まず、登る山を決める | p.87 | 15分 | |
Chapter4 前例破壊 異業種タッグが既成概念を壊す | p.115 | 21分 | |
Chapter5 爆速誕生 "言霊"が組織を動かす | p.153 | 16分 | |
Chapter6 再活性化 見られるからこそ社員は輝く | p.183 | 18分 | |
Chapter7 試行錯誤 「! 」を生み続ける組織へ | p.215 | 14分 | |
あとがき | p.240 | 3分 |
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