アメリカの最新教育理論。何が子供に影響を与え、その後の人生の成功を左右するのかということを、様々な研究から紹介しています。
■知能至上主義は本当か
「知能至上主義」とは、口に出して言われる事はあまりないが多くの人々が信じている考え方で、今日の社会でいう「成功」は主に認知的スキル(文字や言葉を認識したり、計算したり、共通のパターンを見抜くといった知力)の有無で決まるというものだ。こうしたスキルを伸ばす最良の方法は、可能な限り練習を重ねる事と、可能な限り早く始める事であるという。
こうした研究で最も有名なのは、ベティ・ハートとトッド・R・リズリーという2人の児童心理学者がはじめたもので「子供の教育に決定的な違いが生じる原因は、ごく幼い内に両親から聞いた言葉の数である」というものだ。ホワイトカラーの親に育てられた子供は3歳までに三千万語を耳にしていた一方で、生活保護を受けている親に育てられた子供が聞いたのは一千万語だった。
知能至上主義に抗し難い説得力があるのは否定できない。しかし、特にここ数年の間に、多くの学者が知能至上主義の背後にある思い込みに疑問を投げかけはじめた。
最初の数年は、子供の脳の発達にとって決定的に重要である。しかしその間に子供が獲得する肝要なスキルは、読み書き計算をできるようになるかではなく、性格である。つまり、粘り強さや自制心、好奇心、誠実さ、物事をやり抜く力である。
子供時代の逆境と成人してからのネガティブな結果の間には非常に深い相関関係がある。ストレスに満ちた環境で育った子供の多くが、集中する事やじっと座っている事、失望から立ち直る事、指示に従う事などに困難を覚える。それが学校の成績に直接影響する。
極度に貧しい子供たちが直面する最大の障害は、高レベルのストレスを生み出す家庭やコミュニティであり、そのストレスに子供がうまく対処するのを助けるはずのアタッチメント(愛着)が欠けている事だ。
貧困に対抗する手段として、不利な状況にある若者に差し出せる最も価値あるツールは「性格の強み」をおいて他にない。つまり、誠実さ、やり抜く力、レジリエンス、粘り強さ、オプティミズム(楽観主義)である。
若い人々の成功に極めて重要な役割を果たす性格の強みは、生まれながらのものではない。脳内の化学反応に根ざし、子供が育つ環境によって形作られる。親は格好の媒体だが唯一の媒体ではない。強みの形成を助ける力はソーシャルワーカーからも教員からも、近隣の住人からも発する事ができる。
著者 ポール・タフ
ジャーナリスト 『ハーパーズ・マガジン』『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』編集者・記者を経て、フリーのジャーナリスト。子供の貧困と教育政策を専門に多数の執筆・講演活動を行う。
帯 HONZ代表 成毛 眞 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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序章 明からになる新事実 | p.11 | 14分 | |
第一章 失敗する子、しない子 | p.29 | 49分 | |
第二章 何が気質を育てるのか | p.92 | 57分 | |
第三章 考える力 | p.165 | 46分 | |
第四章 成功への道 | p.225 | 28分 | |
第五章 わたしたちに何ができるのか | p.261 | 23分 |
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