ウィンザーホテル洞爺を再生させたホテルマンである著者が、ホテル経営の要諦とホスピタリティとは何かを説く。多様化し、高度化した個人のニーズに対して、どのようにサービス提供すればよいのか。
■ホテル経営の要諦
ホテルの基本戦略はシンプルである。同じ収入を獲得するために「稼働」を重視するのか、「客の消費単価」を重視するのかの2つに1つである。高級ホテルを志向する場合、投資に見合った高単価優先政策をとり、安定した顧客層を獲得する事を意識する事が重要である。ホテルの室数は限られているため、やみくもに稼働を優先させる事にはブレーキをかけなければならない。
高額投資を行ったホテルは、投資回収のために、宿泊だけではなく、レストランなどの派生商品に対しても潜在消費力の高い富裕層に標準を合わせて営業戦略を強化し、顧客化する対策を最優先すべきである。しかし、これを実現するには、まずライフスタイルの高い客層の確保が先決である。
高級ホテルの場合、ホテルのアイデンティティが個人のアイデンティティと同化した時、あるいは超越する時にのみ、ホテル側に価格設定権が移行する。そうして、ホテルの究極の目標である「生涯顧客層」の形成につながる。つまり「ブランド化」を図る事が大切なのである。
サービス業に携わるプロでさえも「ホスピタリティ」の意味を単に「誠意あるおもてなし」や「心のこもったサービス」と捉えており、マネジメント政策をオペレーションサービスに反映しなければならないという意味合いを理解していない。
「ホスピタリティ」とは、相手の望む事に対し、限りなく柔軟に対応する事であり、かつ、それは自己流のアドリブではなく、プロとして極限まで追求されたクオリティを有し、ワンパターンに陳腐化する事なく、時代のトレンドを読みながら、変幻自在に対応する事である。
そして、究極の目標である「生涯顧客」の獲得を目指すという具体的目標を確立すれば、顧客獲得に要する費用は、マスマーケティングよりも遥かに効率の良い投資となり、マーケティングコストを限りなく低下させていく事が可能となる。
「ホスピタリティ」という概念を実践する事は、サービスレベルと顧客満足度の向上のために根本的に必要なものであり、さらに、それによって運営面においても、抜本的なコスト削減を実現する事ができるのである。
著者 窪山 哲雄
1948年生まれ。ザ・ウィンザー・エンタープライズ 代表取締役社長 数々の名門ホテルで経験を積み、かつてバブルの象徴と言われたホテルエイペックス洞爺をザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパとして再生させた人物。石ノ森章太郎の漫画「HOTEL」の東堂マネージャーのモデルとして知られている。 1975年米国ヒルトンホテルズコーポレーション入社、ニューヨークのウォルドルフ・アストリアホテルに配属。1978年ホテルニューオータニ東京入社。1989年東京ベイヒルトン(現ヒルトン東京ベイ)副総支配人。 1991年、長崎ハウステンボス内のホテル運営会社NHVホテルズインターナショナル代表取締役社長に就任、ホテルヨーロッパなど5ホテルを立ち上げる。1997年ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナルを設立、代表取締役社長に就任。2013年に同社を退任ザ・ウィンザー・エンタープライズの代表取締役社長に就任。
日本経済新聞 早稲田大学教授 中村 清 |
帯 放送作家 小山 薫堂 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.1 | 4分 | |
第1章 マーケティングとは何か? | p.11 | 55分 | |
第2章 マーケットを創造し育成する | p.99 | 44分 | |
第3章 ITがもたらした功罪 | p.169 | 30分 | |
第4章 鍵は、ホスピタリティ | p.217 | 27分 | |
第5章 ホスピタリティ・マーケティングにおける人材育成 | p.261 | 39分 | |
おわりに | p.323 | 2分 |