第五の権力
歴史を振り返ると、これまで新しい情報技術が開発されるたび、国王であれ、教会やエリート層であれ、従来の権力者が力を奪われ、人々が力を手に入れた。そして情報や新しい通信方法を利用できるようになった人々は、それまでにない方法で社会と関わり、責任を追及し、より主体的に生きる機会を得たのである。
現在、見られるコネクティビティの広がり、中でもインターネット対応携帯電話を通じた広がりは、このようなパワーシフトの最も典型的な例であり、最も奥深い例である。人々がデジタル技術を通じて、第五の権力を得る。情報化による権力拡大によって、世界中の多くの人達が、生まれて初めて権力というものを手にするのだ。
技術は世界、国家、企業、あらゆる問題に結びつく
これから私達は、過去のどの世代よりも多くの変化を、より速いペースで経験する事になる。私達の手の中にある端末を大きな原動力とするこの変化は、想像もできないほどパーソナルで、それでいてあらゆる人を巻き込む変化になるだろう。
人類が文明の夜明けから2003年までに作り上げたデジタルコンテンツと同じだけの情報量を、私達は2日ごとに生み出している。これは約5エクサバイト分もの情報だが、それでもやがてインターネットに接続される70億人の内の、たった20億人が生み出す量でしかない。
コネクティビティが広がり、さらに数十億人が仮想世界に足を踏み入れる内に、技術は世界のあらゆる「難題」と密接に結びつくようになる。国家、市民、企業はどんな問題を解決するにも、技術を頼りにするだろう。コネクティビティの広がりを抑えたり、インターネットへのアクセスを阻害しようとする企ては、十分長い目で見れば必ず失敗する。
未来の世界について知っていること
①技術はそれ自体では、諸悪を解決する万能薬にならないが、賢明に利用すれば大きな違いを生む。今後、コンピュータと人間は、それぞれが得意な事を活かす方向で、一層の役割分担を進める。
②仮想世界は既存の世界秩序を覆したり、組み替えたりする事はないが、現実世界でのあらゆる動きを複雑にしていく。個人と国家は、インターネットが続く限り、緊張関係が続く。
③国は仮想世界と現実世界とでそれぞれ異なる政策を実行する事になる。
④コネクティビティと携帯電話が世界中に普及する事で、市民は過去のどんな時代よりも大きな力を手に入れる。但し、それには特にプライバシーとセキュリティに関する代償を伴う。
仮想文明と現実文明が、互いに影響を与え、両者のバランスによって、私達の世界は方向づけられるだろう。私達は未来を楽観している。それは、技術とコネクティビティに、世の中の悪弊、苦難、破壊を抑制する効果があるからだ。出会いと好機が重なるところには、無限の可能性がある。