今日の戦略のシナリオは、一時的な競争優位という概念に基づく必要がある。競争環境が短期的なチャンスの波を次々に乗り移る能力を求めるようになると、従来の枠組みとシステムは負債に変わる。こうした不安定で不確実な環境で戦うには、やり方を変える必要がある。

私達は何より、業界内の競争が最大の脅威だという想定を変えなければならない。多くの市場で、業界が他の業界と競争し、同じ業界内でもビジネスモデルが別のビジネスモデルと競争し、とんでもない場所から全く新しいカテゴリーが現れるという事態がますます増えている。

優位性はつかの間のものに過ぎないから、既存のモデルは絶えずプレッシャーを受け、優位性の再構成・再構築や更新が必要になる。一時的優位性の環境では、「再構成」のプロセスは成功への重要な鍵だ。再構成を通じて、資産、人員、能力がある優位性から別の優位性へ移行するからである。

持続する競争優位という想定と、よりダイナミックな戦略との最大の違いは、撤退（利用しつくされたビジネスチャンスから離れるプロセス）がイノベーション、成長、活用と同じく事業の中核をなすという事だ。一時的優位性の環境をうまく生き抜いてきた企業に見られるのは、古い優位性から絶えず資源を引き揚げ、新たな優位性の開発に投資するというパターンだ。

優位性から優位性へ移行する優れた実績を持つ企業は、内部の安定性を保つ一方で、対外的なアジリティー（俊敏さ）を発揮する方法を見出している。

・安定性の5つの源泉
①野望
グローバルな野望を社是に掲げ、あらゆるケースで明確な戦略的方向感覚を持つ。

②アイデンティティーと文化
価値観、文化、連帯に格別な注意を払い、しつこいほどに研修に投資する。

③人員配置と人材開発
たゆまぬ研修と人材開発こそが、競争条件が変化した時に従業員を解雇せずにすむ仕組みだと理解し、人員の配置に心を砕く一方で研修にも投資する。

④戦略とリーダーシップ
明確で単純な少数の戦略的優先事項、企業文化の構築と有能な人材育成の重要性、いくつかの中核的能力を活用する。

⑤安定した関係
クライアント、エコシステムパートナーの間の関係も安定させる。

・アジリティーの5つの源泉
①痛みを伴わない小さな変革を重ねる
不採算事業の突然の売却に走るのではなく、柔軟かつ継続的に資源を再配分する。

②予算編成で資源の抱え込みを許さない

③柔軟性の強化に投資する

④イノベーションを本業としてとらえる

⑤オプション志向で市場を開拓する
小さな初期投資をして好機を探り、うまくいきそうなものが見つかれば、その後もっと本格的に投資をする。