「本当の自分」を探すよりも、「本物の自信」を育てたほうがいい。養老孟司氏が、「個性」とは何か、「自分」とは何かについて、考えを語った一冊です。
■人との違いよりも同じところを探せ
戦後、日本人は「自分」を重要視する傾向が強くなった。これは欧米からの影響によるところが大きいだろう。その結果、個々人の「個性」「独創性」が大切だと散々言われるようになった。
そんなものがどれだけ大切なのかは疑わしい。特徴や長所があるのはいい事である。しかし、そのような個性は、別に「発揮せよ」と言われなくても自然と身についているものである。周囲がお膳立てをして発揮させたり、伸ばしたりする類いのものではない。むしろ周囲が押さえつけにかかっても、それでもその人に残っているものこそが個性なのである。
個性は放っておいても誰にでもある。だから、この世の中で生きていく上で大切なのは「人といかに違うか」ではなくて、人と同じところを探す事である。
■「自分」は矢印にすぎない
人間は基本的には頭の中に地図を持っている。自宅がどこで、駅がどこで、会社がどこで、というのがわかっている。だから、普段、きちんと会社に行って家に帰れる。ところが、地図には現在位置の矢印がなければ役に立たない。
「自分」「自己」「自我」「自意識」等々、結局のところ「今自分はどこにいるのかを示す矢印」くらいのものに過ぎない。地図の中にある現在位置を示す矢印を消していくとどうなるか。自分と地図が一体化する。自分と世界との区別がつくのは、脳がそう線引きをしているからであって、「矢印はここ」と決めてくれているからである。
「自分」とは地図の中の現在位置の矢印程度で、基本的に誰の脳でも備えている機能の1つに過ぎない。とすると、「自己の確立」だの「個性の発揮」だのは、そう大したものではない。元々、日本人は「自己」とか「個性」をさほど大切なものだとは考えていなかったし、今も本当はそんなものを必要としていないのではないか。「個性を伸ばせ」「自己を確立せよ」といった教育は、若い人に無理を要求してきただけなのではないか。
著者 養老 孟司
1937年生まれ。東京大学名誉教授 東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年東京大学医学部教授を退官し、現在東京大学名誉教授。著書に『唯脳論』『バカの壁』『養老孟司の大言論』など、専門の解剖学、科学哲学から社会時評まで多岐に渡る。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
週刊 東洋経済 2014年 7/26号 「『21世紀の資本論』が問う 中間層への警告/人手不足の正体」 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
まえがき | p.3 | 2分 | |
第1章 「自分」は矢印に過ぎない | p.11 | 12分 | |
第2章 ほんとうの自分は最後に残る | p.33 | 7分 | |
第3章 私の体は私だけのものではない | p.46 | 10分 | |
第4章 エネルギー問題は自分自身の問題 | p.65 | 6分 | |
第5章 日本のシステムは生きている | p.77 | 16分 | |
第6章 絆には良し悪しがある | p.107 | 6分 | |
第7章 政治は現実を動かさない | p.118 | 18分 | |
第8章 「自分」以外の存在を意識する | p.152 | 13分 | |
第9章 あふれる情報に左右されないために | p.176 | 15分 | |
第10章 自信は「自分」で育てるもの | p.204 | 9分 | |
あとがき | p.222 | 1分 |
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