映画、テレビ、スポーツ、IT業界では、リソースを集中させて、大ヒットを狙うことこそが正しい戦略である。ハーバード・ビジネススクール教授が、エンターテインメント業界における戦略について解説している一冊。
■ブロックバスター戦略とは
「ブロックバスター戦略」はエンターテインメント商品の生産や、マーケティングにとって最善の策なのかという問いに対する答えは「イエス」だ。ブロックバスター戦略を奉じる映画スタジオは、リソースをポートフォリオの製品に均等に割り振るよりも、制作とマーケティング費用を少数の作品に割り当て、莫大な売上と利益がもたらされる事を狙う。たとえ大した確証はなくても、映画スタジオは最もヒットしそうな作品に大きく賭ける。多額の予算を投じて多くの集客を目指す作品を製作するのだ。
2010年を例にすると、ワーナーはその年22本の映画を公開しており、製作費に約15億ドル、全米での宣伝広告に7億ドル以上かけた。製作費予算の1/3は『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(2.5億ドル)『インセプション』(1.75億ドル)『タイタンの戦い』(1.25億ドル)に投じられた。
高額を投じた上位3作品は、総製作費の1/3を占めるに過ぎないが、同年の興行収入に占める割合は全米で40%以上、全世界で50%以上だった。年間余剰金の60%以上が上位3作品から生じている。
主要なテレビ放送網や映画スタジオ、出版社、レコード会社、ビデオゲームメーカー、それにエンターテインメント業界のその他プロデューサーは、ヒットを見込めるコンセプトを入手して育成し、市場に売り込む事に巨額の投資をする事で栄える。さらに、そうしたヒット作品の売上で、その他コンテンツのそこそこの業績を埋め合わせようとする。
つまり、商品ラインに均等にリソースを分配し、利益を増やそうとしてコスト削減に努めるよりも、ブロックバスターを狙って大きくつぎ込み、「その他大勢」につぎ込む費用を大幅に少なくする事が、ショービジネスの世界で常に成功を収める確実な方法なのである。
ブロックバスター戦略は確かにリスクと無縁ではない。広告宣伝費を最大限につぎ込んで大々的に売り出した作品でも、市場で大成功を収められる事もあれば、収められない事もある。しかし、コンテンツ制作者には、大きな賭けに背を向ける余裕はない。背を向ける方が、長い目で見ると失敗の可能性が高まる。高い業績をあげるエンターテインメント企業は、少数の商品に勝負を賭けて、多額の費用を投資する。
著者 アニータ・エルバース
ハーバード・ビジネススクール リンカーン・フィレーン記念講座 教授 同校の女性教授として史上最年少で終身在職権を取得し、MBA1年目の必修カリキュラムの議長を務める。人気授業「クリエイティブ産業の戦略的マーケティング」を担当し、映画、テレビ、音楽、出版をはじめ、スポーツ産業やナイトクラブまで、ビジネスのロジックで分析していく。 『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『バラエティ』誌、『フォーチュン』誌などで研究が取り上げられる。
帯 サンリオ常務取締役 鳩山 玲人 |
帯2 ハーバード・ビジネス・スクール教授 クレイトン・クリステンセン |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
週刊ダイヤモンド 2015年 10/31 号 [雑誌] 八重洲ブックセンター八重洲本店 販売課リーダー 鈴木 寛之 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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序 章 ショービジネス成功のカギはブロックバスター | p.1 | 16分 | |
第1章 ブロックバスターに勝負を賭ける【映画&出版業界】 | p.19 | 55分 | |
第2章 ブロックバスターを売り出して管理する【音楽業界】 | p.81 | 34分 | |
第3章 スーパースターに投資する【スポーツ業界】 | p.119 | 44分 | |
第4章 スーパースターは自らの力をどのように行使するのか【映画&スポーツ業界】 | p.169 | 32分 | |
第5章 デジタル技術はブロックバスターの優位に終焉をもたらすのか【IT業界】 | p.205 | 39分 | |
第6章 ブロックバスター戦略は広告手法を変える【出版&音楽業界】 | p.249 | 28分 | |
終 章 エンタメ業界の戦略は他のビジネスでも通用するのか【サービス&ファッション業界】 | p.281 | 22分 |
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