『嫌われる勇気』の続編。アルフレッド・アドラーの思想を、物語形式でまとめた一冊。
■他者からの承認を求めない
アドラー心理学では、承認欲求を否定する。承認欲求にとらわれた人間は、他者から認めてもらう事を願うあまり、いつの間にか他者の要望に沿った人生を生きる事になるからである。そのため、アドラー心理学には「課題の分離」という考え方がある。人生のあらゆる物事について「これは誰の課題なのか?」という観点から「自分の課題」と「他者の課題」を切り分けて考える。「あなたは他者の期待を満たすために生きているのではない」。そして「他者もまた、あなたの期待を満たすために生きているのではない」。他者の視線に怯えず、他者からの評価を気にせず、他者からの承認も求めない。ただ自らの信じる最良の道を選ぶ。さらには他者の課題に介入してはいけないし、自分の課題に他者を介入させてもいけない。
誰の課題であるのかを見分ける方法は「その選択によってもたらされる結末を、最終的に引き受けるのは誰なのか?」を考えればいい。「課題の分離」ができれば、対人関係の悩みは軽減される。
アドラー心理学では「すべての悩みは対人関係の悩みである」という前提を置く。他者がいなければ、悩みも存在しない。しかし、他者から逃れる事など絶対にできない。
一方、人間の喜びもまた、対人関係から生まれる。「宇宙にひとり」で生きる人は、悩みがない代わりに喜びもない。アドラーの語る「すべての悩みは対人関係の悩みである」という言葉の背後には、「すべての喜びもまた、対人関係の喜びである」という幸福の定義が隠されている。すなわち,幸福になるためには、対人関係の中に踏み出さなければならない。
幸福とは貢献感である。我々はみな「私は誰かの役に立っている」と思えた時にだけ、自らの価値を実感する事ができる。自らの価値を実感し、「ここにいてもいいんだ」という所属感を得る事ができる。しかし、我々は自分の行いが本当に役に立っているのかについて知る術がない。だから「私は誰かの役に立っている」という主観的な感覚があれば、即ち貢献感があればそれでいい。それ以上の根拠を求める必要はない。
我々は交友の関係を通じて、自分が誰かの役に立っている事を実感する。「交友」において、他者の目で見て、他者の目で聞き、他者の心で感じる事を学ぶ。我々は「交友」の関係においてこそ、他者への貢献を試される。「交友」に踏み出さない人は、共同体に居場所を見出す事も叶わない。
交友の関係を成立させるのは「あなたの幸せ」である。相手に対して、担保や見返りを求める事なく、無条件の信頼を寄せていく。ひらすら信じ、ひらすら与える利他的な態度によって、交友の関係は生まれる。
すべての人間は過剰なほどの「自己中心性」から出発する。そうでなくては生きていけない。しかし、いつまでも「世界の中心」に君臨する事はできない。世界と和解し、自分は世界の一部なのだと了解しなければならない。自立とは「自己中心性からの脱却」である。
我々は愛によって「わたし」から解放され、自立を果たし、本当の意味で世界を受け入れる。ここでの愛とは「ふたりで成し遂げる課題」であり、そこでは「わたし」の幸せでも「あなた」の幸せでもなく「わたしたち」の幸せを追い求めなければならない。その時初めて、我々は「わたし」から脱却できる。
著者 古賀 史健
1973年生まれ。フリーランスライター 出版社勤務を経て24歳でフリーに。30歳からは書籍のライティングを専門とする。以来、「ライターとは“翻訳者”である」「文章は“リズム”で決まる」を信念に、ビジネス書や教養書を中心に現在まで約80冊を担当。多数のベストセラーを手掛ける。
著者 岸見 一郎1956年生まれ。哲学者 専門の哲学に並行して1989年からアドラー心理学の研究をしている。京都教育大学教育学部、甲南大学文学部、京都府医師会看護専門学校、奈良女子大学文学部非常勤講師、前田医院(精神科)勤務などを経て、現在は、聖カタリナ女子高等学校看護専攻科(心理学)非常勤講師。 日本アドラー心理学会認定カウンセラー。日本アドラー心理学会顧問。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
週刊ダイヤモンド 2016年 3/19 号 [雑誌] (全国病院改革ランキング) |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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イントロダクション | p.2 | 7分 | |
第一部 悪いあの人、かわいそうなわたし | p.21 | 35分 | |
第二部 なぜ「賞罰」を否定するのか | p.77 | 31分 | |
第三部 競争原理から協力原理へ | p.127 | 27分 | |
第四部 与えよ、さらば与えられん | p.171 | 31分 | |
第五部 愛する人生を選べ | p.221 | 38分 |