吉野家の経営戦略やこれまでの商品開発が語られている一冊。吉野家会長と伊藤元重教授による、吉野家の解説書。
■牛肉の秘密
牛肉は米国産のショートプレートを使っているが、最初は国産牛肉だった。一時期、吉野家は練馬で肉屋もやっていた事がある。北海道に牧場を取得して牛の肥育を行っていた時期もある。
ショートプレートのバラというのは、アメリカでは加工用の素材として安価な商品だった。吉野家はそういうものを買ってきて、工場でサイドの筋を落とし、表面の脂を削って、スライサーの幅である9インチ(約23cm)に切り分けた。これを規格にした。
スライサーで切る牛肉の厚さは1.3mmというのが規格。これは現場の経験則から生まれたものでずっと変えていない。但し、季節によって牛肉の質が変わる事もあるので、その都度0.1mm単位で食感テストをやっている。煮上がった時、どの厚さが最も食べやすいか常に研究している。
吉野家は牛丼一本槍から路線を変更し、複数のメニューを提供するようになった。BSEの一件やその後のデフレ経済、競争相手の台頭などいろいろ理由がある。しかし、見方を変えれば、こういう環境の変化のおかげで、事業の幅が広がった。
品質や味は単品で勝負するのが一番いい。ある一定数以上を出し続ける事で、一定のおいしさを担保できる事はある。牛肉と玉ねぎを加熱した時に出てくるジュースとの混じり合いで、たれのうまみが出てくる。
しかしBSE騒動を経て、状況は変わった。それまでの牛丼は絶対価値を持っていた。突き抜けた存在で、そこにはちゃんと支持もあり、マーケットも形成されていた。しかしBSE後は、相対価値で突き抜ける状態を作らなければならなくなった。味でいえば、絶対テイストではちょっと劣るかもしれない。しかし、品目構成が魅力的で、それぞれの品目が信頼の置けるものであり、お客様にとって使い勝手が良いものであれば、補って余りある存在になれる。
著者 伊藤 元重
1951年生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授 1996年より東京大学大学院経済学研究科教授。専門は国際経済学、ミクロ経済学。復興推進委員会委員長。安倍政権の経済財政諮問会議議員。
著者 安部 修仁1949年生まれ。吉野家ホールディングス会長 アルバイトがきっかけで吉野家入社。1980年の倒産後は再建に尽力。開発部長などを経て1990年代表取締役常務。1992年より吉野家ディー・アンド・シー代表取締役社長、2007年吉野家ホールディングス代表取締役社長、2010年事業会社吉野家代表取締役社長に復帰。 2014年、吉野家代表取締役社長、吉野家ホールディングス代表取締役会長を退任、現職。
日本経済新聞 |
週刊ダイヤモンド 2016年 4/2 号 [雑誌] (三井・住友 名門烈伝) 紀伊國屋書店新宿本店仕入課係長 大矢 靖之 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.9 | 2分 | |
1章 「うまい」の戦略は細部に宿る―牛肉の秘密 | p.19 | 14分 | |
2章 食材へのこだわり―米、玉ねぎ、生姜、たれ | p.47 | 12分 | |
3章 「牛肉がない!」―BSE騒動における危機管理 | p.71 | 18分 | |
4章 デフレに揉まれて―熾烈な価格競争の舞台裏 | p.107 | 17分 | |
5章 海外展開の波瀾万丈 | p.141 | 14分 | |
6章 もう「外食産業はブラック」とは呼ばせない―吉野家流人材育成の妙 | p.169 | 18分 | |
7章 「牛丼の吉野家」ではなくなる日―新メニューへの挑戦 | p.205 | 16分 |
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