行動経済学の第一人者が、読者から寄せられた意思決定や人間関係の疑問と悩みに全力で回答している一冊。ウォールストリート・ジャーナルの人気連載を書籍化したもの。
■人に頼まれると断れない
スカスカのカレンダーを見て「ひと月後なら予定がガラ空きだし、断れるわけない」と自分に言い聞かせるのは間違っている。実のところ、予定が空いているのではなく、細かい予定がまだ決まっていないだけだ。そしてその日が来ると、その余分なお願いごとがなかったとしても、やるべき事がありすぎて手一杯の状態だ。その時初めて、引き受けるんじゃなかったと後悔する。望ましい優先順位を守るための方法は3つ。
①頼み事をされるたびに「来週だったらどうするか」と考える。
他の約束より優先するつもりがないなら、きっぱりノーと言う。
②頼み事をされたら、予定表を見てその日に動かせない予定が入ってたと想像する。
残念だと感じるなら、頼み事を引き受ければいい。
③一旦、頼み事を引き受けた後で、それがキャンセルになったと想像する。
もし喜びを感じるなら、ノーと言う。
■恒例イベントは守るべきか?
一般的にいって、人はよく知っている事をやり続けたいという心理がはたらく。旅先なのにおなじみのチェーン店に行き、おなじみの料理やおなじみのアイスクリームさえ注文してしまうのは、私達が確実な物事に惹かれるからだ。わかりきった事をするより新しい事にトライした方が、楽しいかもしれないが、気に入らないかもしれない。それに「利益の喜びより、損失の悲しみの方が大きい」という損失回避の心理法則を考えると、惨めな経験をする不安が重くのしかかり、リスクを冒して新しい事を試す気にはなかなかなれない。
これは3つの大きな理由から間違っている。1つには、長い目で見てこの先20年ほど休暇や外食の機会がある事を考えると、決まった選択肢に落ち着く前に、他にどんなものがあるのか、自分達は何が好きなのか、どういう経験がベストなのかを開拓する価値があるのは間違いないからだ。2つ目として、多様性は人生のとても重要なスパイスだから、そして、最後に休暇は期待に胸を膨らませ、旅行そのものを楽しみ、後から思い出をかみしめる。この内、一番時間が短いのは、実際に旅行している時間だ。これらを考え合わせると、新しい事を試すべきだ。
■年々時間が経つのが早くなる
歳をとるにつれて時間が経つのがますます早く感じられる。人生の最初の数年は、感じること、することのすべてが生まれて初めての経験で、その時にしかできない事が多い。だから強烈な印象が残り、記憶がしっかり焼き付く。でも年月が経つにつれて、新しい経験は減っていく。大人になる頃には既にいろんな経験を積み、多くの事を成し遂げているからだ。もう1つ、喜ばしくない理由として、私達は日々の雑事にますます追われ、新しい経験に手を出す事も減っていく。
自分の経験した事をよく覚えている人ほど、人生に対する満足度と幸福度が高い事がわかっている。新しい事を試し、変化に富む生活を送るようになれば、時間の進み方が遅く感じられ、幸福感が高まるはずだ。
著者 ダン アリエリー
1968年生まれ。デューク大学教授 行動経済学研究の第一人者。テルアビブ大学で心理学を学んだ後、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で認知心理学の修士号と博士号、デューク大学で経営学の博士号を取得。 その後、MITのスローン経営大学院とメディアラボの教授を兼務した。この間、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン高等研究所などにも籍を置いている。 18歳のとき、全身70%にやけどを負う事故にあい、3年間を病院で過ごした。その結果、いささか型破りなものの見方を身につけたという。その研究のユニークさは、2008年度にイグノーベル賞を受賞したことでも証明されている。
日本経済新聞 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
マインドマップ的読書感想文 smooth |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.11 | 2分 | |
100の不合理 | p.15 | 125分 |
人間の喜びと経済的価値―経済学と心理学の接点を求めて (1979年) [Amazonへ] |