変えられることに注目せよ
アドラーは、理由を持ち出して、自分が取り組むべき課題から逃げようとすることを「劣等コンプレックス」と呼んでいる。課題から逃げようとする理由として、自分も他の人もそういう理由であれば仕方がないと思えるようなことを挙げる。過去の経験、現実の困難、神経症を理由にすることもある。
生きづらさや、幸せになれないのは過去の経験や今の社会状況などに原因があると考えることには「目的」がある。そのように考えれば、原因は目的論に包摂されることがわかる。
今の問題の原因を何かに求めている限り、本来自分の責任で自分の生き方を改善しなければならないのに、積極的には自分の課題を解決しようとはしなくなる。過去や他人のせいにしないことは、カウンセリングを受ける人にとっては厳しいことになる。今起こっていることの責任を、自分が引き受けるということだからである。
変えられないことについてではなく、変えられることに注目することが大切である。それは対人関係である。アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言っている。アドラーは、神経症も心の問題ではなく、対人関係の問題だと考える。その対人関係もこれまでどうであったかではなく、これからの対人関係の改善に努めることを提案する。
自信がなく本心を話せない人へ
本心を話せる人は1人いればいいので、誰にでも本心を話す必要など全くない。それにもかかわらず、誰にでも本心を話さなければならないという不可能な目標を掲げ、それが難しいことを理由に対人関係を避けている。他の人にそれがどう評価されるか、どう思われるかはあなたの課題ではない。何も言わなければ対人関係は長い目で見れば良くならない。
人前で緊張する人へ
人前で話す時に緊張することには訳がある。1つには、うまく話せなかった時、そのことの言い訳にしたいからである。つまり、緊張さえしなかったらうまく話せたと言いたいのである。もう1つは、話を聞いている人のことを信頼できていないからである。緊張してうまく話せない人がいても、その人のことをバカにして笑う人はいない。緊張するのであれば、緊張していることを隠さないで「緊張している」と口にすればいい。
占いに頼ってしまう人へ
アドラーは本来因果関係のないところに因果関係を見出すことを「見かけの因果律」と呼んでいる。自分の不幸の原因を何かに求めるが、他方で幸福の原因を求めることはない。占いにおいては、未来が決まっているということが前提になる。しかし、未来が決まっていれば、人生はつまらないものになる。これからは何が起こるかを知らず、これからの人生を変えられるからこそ、生きることに価値がある。