ワタミはなぜ「ブラック企業」として叩かれることになったのか。ワタミの事例を通じて、ブラック企業と批判される構造と、企業の危機対策について解説されている一冊。
■ワタミの凋落
「ワタミはブラック企業」との評判による弊害は、売上低下のみにとどまらず、株価の下落や採用活動の難航など経営活動全体に打撃を与えた。その影響は関連会社にも波及し、グループ全体が経営危機に陥っている状態だ。直近、2015年3月期の連結決算の最終赤字は128億円。2期連続赤字に陥っており、主力である外食事業は43ヶ月連続で売上が減少していた。手元の現金が底を尽き、追い込まれたワタミは介護事業を210億円で売却することで、すんでのところで倒産を回避した。
2008年、ワタミに入社したばかりの女性社員が過労自殺し、大々的に報道された。その頃から「アルバイトの残業時間切り捨て問題」「告発したアルバイトに対する報復的解雇問題」など、同社の店舗における長時間労働や法令違反に関する事件の報道が増え始める。また従業員に対する渡邉美樹の厳しい姿勢などが報道で明らかになっていき、ワタミに対する「ブラック企業批判」が語られるようになった。2013年には、ワタミがブラック企業の代名詞のように語られ、そこから客離れ、従業員離れなどの影響による業績悪化が始まった。
ワタミがブラック企業だと目されるようになった一番のきっかけとなったのは、ある1人の女性社員が不幸にも入社間もなく自殺してしまったことだ。その後、労基法に違反する事件や、労基署から指導を受けた事案も発生し、報道された。違法状態が存在することをメディアに告発した現役社員もいた。世間は、そんなワタミを「ブラック企業」と批判した。
会社が成長に向けて邁進している段階で、内部統制や法対応が追いつかない事態というのは後に「ブラック」と批判される企業にはよく起こることだ。実際、ワタミは毎年100店舗ペースで出店していた時期もあり、その店舗を任せられるだけの人員も教育も、体制自体が現実問題として実現できていなかったと言える。あくまで「現場にいる従業員1人1人が頑張る」ことでかろうじて成り立っている構造であった。。この状態が「ブラック」であった。
会社の経営は「なんとかなっていた」ため、問題が顕在化するのが遅れてしまった。不祥事が起きた時点で、「なぜ起きたか」についての十分な検証が仮になされていなくても、もっと早く事件を開示し、企業として受け止めて、「変えるべきところは変える」「このような点を変えた」といった迅速な対応を行い、情報発信すべきであったのだが、ワタミはそれをしなかった。
結局、ワタミの失敗とは、ブラック企業であったからというよりも、やるべきことをやるべき時にやっていなかったために起きた「経営の失敗」という側面の方が大きいのではないか。
著者 新田 龍
1976年生まれ。働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役 ブラック企業問題の専門家。ブラック企業から組織と人を守るコンサルティング、企業の働き方改革推進による脱・ブラックのためのアドバイスを手掛ける。 キャリアコンサルタントとして、新卒採用担当等を歴任。2007年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。2009年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。 大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。
帯 旭酒造代表取締役社長 桜井 博志 |
PRESIDENT (プレジデント) 2016年11/14号「上流老後、下流老後」 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.3 | 3分 | |
第1章 ベンチャーの旗手が「ブラック企業」と呼ばれるまで | p.15 | 36分 | |
第2章 日本の会社がブラック企業になっていくメカニズム | p.87 | 23分 | |
第3章 「ブラック企業」と呼ばれたとき、企業はこれだけの財産を失う! | p.133 | 11分 | |
第4章 御社が「ブラック」と呼ばれたときにはどうする? | p.155 | 14分 | |
第5章 世間にブラック企業といわれないために今日からやるべきこと | p.183 | 15分 | |
第6章 その後のワタミ | p.213 | 12分 | |
おわりに | p.237 | 1分 |
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