セブン&アイを巨大企業に育て上げたカリスマ経営者の半生を振り返る一冊。
■雇われ社長としての矜持
鈴木敏文は、イトーヨーカ堂の創業者である伊藤雅俊から経営手腕を高く評価され、早くから頭角を現してきた。伊藤が総会屋事件で引責辞任して以降、鈴木は名実ともにトップとなったが、それを支えたのは伊藤からの絶大な信任だった。鈴木にとっては、伊藤の信任は自らの実力で勝ち取ったという自負がある。創業者と「雇われ社長」という立場をわきまえ、「無私」の姿勢で仕事に打ち込み実績を重ねてきたことで、伊藤の信頼を得てきたとの思いだ。そして、「資本と経営の分離」こそが、鈴木が半生を賭けて守り抜いてきた「雇われ社長」としての矜持だ。
「伊藤さんは、僕がやることに『いいよ』と言うことはほとんどなくて、反対ばかり。伊藤さんだったら、コンビニなんかやらなかったでしょうね。絶対に」「もちろん、僕はずっと自分を無くそうと努力してきた。だから、伊藤さんも僕をずっと使ってこられたのだと思う。それに、僕のやってきたことは、幸いにして成功してきたから、伊藤さんは僕を追認し、一切を任せてきた」
その姿勢は、鈴木が1963年、まだ5店舗しかなかったイトーヨーカ堂のに転職して以来、ずっと守ってきたものだ。この鈴木の矜持が、セブン&アイを売上高で10兆円を超える巨大グループに成長させていったのである。
戦後、多くの小売企業が誕生し、日本の高度成長と共に発展を遂げた。だが、バブル崩壊を乗り越え、今日まで順調に経営を持続させた有力企業は多くない。「流通革命」を掲げた中内のダイエーは経営破綻し、消費を文化に昇華させた堤のセゾングループは解体した。巨大グループとして存続しているのは、経営難に直面したスーパーなどを次々と吸収してきたイオングループと、セブン&アイだけだ。
特にセブン&アイは、創業者である伊藤と、雇われ経営者である鈴木の絶妙なバランスにより、祖業のスーパーから、鈴木が立ち上げたコンビニへと経営の主軸を劇的に転換させた。それは、常識にとらわれず、周囲の反対にも屈することなく、消費者目線で変化に挑み続けた鈴木なくして、あり得なかった。
著者 日経BP社
日本経済新聞社の100%子会社。日経ビジネスなどの経営誌、日経トレンディなど生活情報誌に加え、日経アーキテクチュア、日経エレクトロニクス、日経コンピュータ、日経メディカルなど30を超える技術系の専門誌を発行。
エコノミスト 2017年 2/21 号 [雑誌] 甲南大学特別客員教授 加護野 忠男 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.3 | 3分 | |
1章 鈴木敏文、半生を振り返る | p.15 | 39分 | |
2章 鈴木と伊藤、最強の2人 | p.87 | 70分 | |
3章 鉄壁のセブン帝国 | p.217 | 67分 | |
終章 舞台を降りたカリスマ | p.341 | 14分 | |
おわりに | p.367 | 3分 |