上司が部下のために仕事をする
真のエンパワーは人にパワーを与えることではない。与えてもらわなくても、人は元々たっぷりのパワー(知識、経験、意欲)を持っていて、立派に自分の仕事ができる。エンパワーメントとは「社員が持っているパワーを解き放ち、それを会社の課題や成果を達成するために発揮させること」である。
本物のエンパワーメントには、その核心にオーナーシップの感覚がある。オーナーシップとは、この会社は自分の会社、この仕事は自分の仕事という風に、すべてを自分のこととして主体的に向き合う態度である。それはトップ・マネジメントの社員に対する考え方を変えることから始まる。ほとんどの組織は、社員を励まして正しい行動を促すのではなく、間違いを見つけて懲らしめることばかりに意識が向いている。
エンパワー・マネジャーとなった上司の新しい役割は、部下が才能とエネルギーを伸ばすことを助け、彼らが会社のゴール達成に向けて効果的に働けるように支援することである。もはや部下が上司のために仕事をするのではなくて、上司が部下のために仕事をするということである。
エンパワーメントの3つの鍵
エンパワーメント組織をつくるには次の3つの鍵がある。
①すべての社員と情報を共有する
社員が最も必要としている情報は、会社が置かれている状況についての情報である。正しい意思決定をタイムリーに行うのに必要な正確な情報を、すべての社員にシェアすることが必要である。正確な情報を持っていれば、責任ある仕事をせずにいられなくなる。
そして、重要な情報を共有することは、相手を信頼していることを伝える一番の方法となる。信頼こそがエンパワーメントの基礎である。
②境界線によって自律した働き方を促す
社員には行動のよすがとなる何らかの枠組みが必要である。自分たちで決めることができ、決めたことに従って行動して構わないという、自律を促す境界線が必要である。新しい境界線を定めるときに重要な要素は「目的」「価値観」「イメージ」「目標」「役割」「組織の構造とシステム」の6つ。まず経営陣が会社の進む方向を明確に定義し、全社員でそれに磨きをかけ、全社員が深く理解することが必要である。目標がはっきり見えていないと、社員はいい仕事ができないし、エンパワーもされない。
③階層思考をセルフマネジメント・チームで置き換える
階層組織は動きが遅すぎ、手続きも面倒である。エンパワーされた社員からなるチームの方が、ばらばらの社員の寄せ集めより強力である。セルフマネジメント・チームは、業務プロセス全体あるいは製品やサービス全体について責任を持った社員によって構成され、仕事の最初から最後までを計画し、実施し、管理する。