思考も遺伝子に影響を与える
人生の要求に応じて遺伝子は自らを表現する方法を変える。そのために必要な微量の生物学的エネルギーを僕らの体は生み出している。そして、僕らの細胞も、それまで成されてきたこと、あらゆる瞬間に成されていることによって導かれて発現している。
思考もまた、常に遺伝子に影響を与え続ける。遺伝子は細胞機構をあなたが抱く期待と実際の経験に合わせるため、長い年月をかけて変わっていかなければならない。記憶を築き、感情を抱き、将来を予測する。それらはすべて、あらゆる細胞内にコードされる。
遺伝子発現は生物が生き残るためのメカニズムである
一般的に僕らの身体は、必要なものを必要な時に必要な分だけ生成し、在庫を最小限にとどめようとする。それを可能にするのが遺伝子発現だ。酵素の生成も生物学的に高くつく。そのコストを削減するために、僕らの酵素は「誘導」される。つまり、ある種の酵素が必要になると身体は要請にすぐに反応し、多くの資源を呼び集めて酵素を生成する。ある酵素用の遺伝子を受け継いでいても、身体が必ずしもそれを使うとは限らない。
生物学的世界は、ほぼ100%にわたって、生活費の無駄をなくす方法で駆動されている。それは絶対に必要なことだ。なぜなら、すべてのエネルギーを使いもしない酵素に費やしてしまったら、脳の可塑性や血流といった常時行われている日々の出来事に使うべき貴重な資源が足りなくなってしまうからだ。
細胞には驚くほど適応力がある。僕らが日々行うことは、遺伝子が細胞にやらせる物事に大きな違いを生み出す。
「遺伝子発現」は、植物、昆虫、動物のみならずヒトでさえ、生きる上で出合う荒波をくぐり抜けるために採用しているサバイバル戦略だ。そして、それらすべてに共通する鍵は、柔軟性である。今見出しはじめているのは、遺伝子はより大きな柔軟性を持つネットワークの一部であるということだ。
遺伝子発現の変化は容易に生じる
遺伝子発現の変化は「メチル化」と呼ばれるエピジェネティックなプロセスを経ることによってよく生じる。三つ葉のクローバーの形をした水素と炭素でできた化合物がDNAにくっついて遺伝子構造を改変し、細胞が予期された通りの細胞になって予期された通りの仕事をするように細胞をプログラムする。遺伝子をオンやオフに切り替えることができるメチル化の「標識」は、がんや糖尿病や先天性欠損症を引き起こしかねないが、一方でより良い健康と長寿をもたらす遺伝子の発現にも影響を与える。近年、メチル化のようなエピジェネティックな改変は、驚くほど簡単に起こることが、急速にわかってきた。こうしたエピジェネティックな変化は、薬やタバコ、飲み物、ストレス、運動、病院で受けるX線検査などによっても生じる。