労働力の余剰をもたらした原因
仕事を変質させたデジタル革命の要素は3つある。この3つのトレンドが重なって労働力の余剰が発生した。
①自動化
事務員や溶接工など一部の職業に置いて、新しいテクノロジーが人間に取って変わりつつあり、今後その対象は運転手からパラリーガルへと広がっていく。
②グローバリゼーション
情報技術が、過去20年間で世界中に広がったグローバルなサプライチェーンを管理することを可能にした。
③スキルの高い少数の人間の生産性向上
スキルの高い一部の労働者の生産性をテクノロジーが大きく押し上げたことで、以前なら大勢の人員を要した仕事が彼らだけでできるようになった。
労働力供給の過剰のマネジメントは難しい
誰かが機械に職を奪われれば別の誰かが得をする。すると別のところで使われるお金が増えるので、その消費が失業した労働者に仕事を作り出す。経済学者は、この魔法のような再配分が、柔軟な価格と賃金という奇跡によって起こると考える。しかし、多くの労働者の賃金が頭打ちになって格差が広がり、それ以外の多くの人々が仕事の世界とは縁遠くなる。そしてどこかで破綻が起きる。社会が仕事を下支えするか仕事の代わりになるものを作り出す方法を見出すか、さもなければ労働者が自分たちの世界を破壊する力を、政治システムを使って弱体化することになるだろう。
共有の富を再分配することが政治的課題に
労働力の余剰は、紛れもなくテクノロジーの進歩の1つの到達点である。それは生きるために必死で働く必要がなくなるということだ。つらい業務を自動化するか、仕事を広くシェアして個々の労働者が心身共につらい労働に費やす時間を減らせる手段が見つかれば、それは間違いなく人類の進歩と言える。
単純労働に費やされる時間を徐々に縮小しながら、生産性の高いテクノロジーによって生み出された共有の富を社会に分配すること、管理が必要なのはそれだけだ。しかし、難しいのはこの再配分だ。労働時間をまんべんなく引き下げられるように生産の成果を均等に分配することは、未だ果たされていない。それが実現できていないのは、政治的に非常に難しいからである。
労働と再分配の持続可能なバランスを編み出すのは想像を絶するほど難しい。特権を享受する富裕層を支えるための金銭的負担をしたがらない。富裕層が提案するような再分配は、不公正とも言える所得格差を残すだけだと貧困層は思うだろう。下手な再分配策を取れば、能力や意欲のある個人が経済を良くするために働こうというインセンティブが失われ、成長が停滞したり、社会の全ての構成員に生活水準の向上をもたらす社会的余剰が足りなくなったりすることになりかねない。労働力の余剰を克服するために社会に変化を起こすとなれば、歴史上の闘争が再来する。