インスタグラムはなぜ成功したのか
インスタグラムの成功は、技術と宣伝、双方のたまものだ。インスタグラムの創設者は開始前に、サンフランシスコのテクノロジー業界の大物のところに、インスタグラムの初期バージョンを持って行った。これら業界の著名人たちが、ツイッターにインスタグラムの写真を何枚か投稿してくれた。そこは、合わせて何百万人というフォロワーが存在している場所である。インスタグラムは、既存の巨大なネットワークを利用して、製品を売り出す前から、既に何千人もの人々にアプローチしていたのである。
インスタグラムを成功させたものは、明快で楽しく使いやすい商品の魅力だが、同時にそれが乗り込んでいったネットワークの力でもある。
人はなじみのあるものを好む
有名な絵、ヒットソング、人気映画などは、いとも簡単に世に知られるようになったかに見えるものもあるが、そこには必ず隠れた発端がある。
人は、自分が前に見たことのあるものを好む傾向がある。「多少知っている」ことによって、それが何か重要なものだと感じられるので、その作品を好むのである。これは心理学で「単純接触効果」として知られている。人々は馴染みの形、景色、商品、歌、人声を、馴染みのないものより好むのである。
ヒット曲のリストを見ると、ある一定レベルを超えたものに関しては、メロディの魅力だけが大ヒットを生む訳ではない。それをするのは露出である。一定レベル以上のヒット曲であれば、本質的な魅力よりも、人々がその曲を何回耳にするかの方が人気に関係する。
メディアの数がずっと限られていた時代、人気はトップダウンだった。流行は今よりコントロール可能で、予測もしやすかった。だが現代は、スマホさえあれば、誰もが発信力を持つ時代だ。このボトムアップの世界では、何がヒットするかという予測は難しくなり、権威を守ることも困難になった。
どこかなじみを覚える驚き
わかりやすい考え方や商品は、脳で素早く処理され、私たちの気分もよくしてくれる。その考え方や商品に対してだけでなく、自分自身に対してもいい感情が生じるのである。これを「流暢性」という。「流暢性」を生じさせる大事な要素の1つが「なじみ感」である。よく知っている考え方は、脳が処理しやすく、メンタルマップの中に収納しやすい。
だが一方で、人には、なじみ感に加え、新しさ、チャレンジ感、驚きなど「発見を求める気持ち」を持っている。一番心に残る経験や商品には、むしろ、少々の驚き、予想のつきにくさ、わかりにくさなどが含まれている。
コツは、新しいアイデアを、これまでにあるものを一捻りしたかのように作ることだ。少しの「流暢性」に少しの「非流暢性」を混ぜ、視聴者や消費者に驚きを与えながらも、どことなくなじみ感を覚えさせることである。