最も根本的な価値を否定する
「圧倒的に見たことない新しいもの」を作るには、自明のように思われているものの価値を覆すのが近道。つまり、「ジャンルの常識」を根底から覆す。
『家、ついて行ってイイですか?』という番組がある。色々な駅の近くでディレクターが待機し、終電を逃した人を見つけたら「タクシー代をお支払いするので、家、ついて行ってイイですか?」と聞いてみて、OKならその場でついて行く、という番組である。
その場で、ベロベロの人などについて行くことで、人が普段社会で見せる「外づら」とは異なる、家で見せる「内づら」を覗き見てみようというドキュメンタリー的な番組だが、この番組は、従来のドキュメンタリーの根本的な価値を真っ向から否定することが演出の根幹をなしている。
この番組が標榜するのは「即興のドキュメンタリー」である。「じっくり長期にわたって取材したものが良質なドキュメンタリーである」という、根本的な価値観の真逆を狙ったものだということ。「超短期密着ドキュメンタリー」というジャンルを作っちゃえという価値を生み出そうとした。
もし「見たこともないものを作ろう」と思うなら、そのジャンルをじーっと観察して、それまでは気づけなかった「あたりまえだ」と受け入れているルールや基本構造を発見することが、第一歩になる。
一番伝えたい価値だけ残す
『家、ついて行ってイイですか?』には、ナレーションがない。音楽もほぼない。ナレーションや過剰な音楽は、本来撮影されたもの以上の価値があるかのように思わせる「感情誘導」ができてしまう。それは、どんどん素材のリアルさが失わせる。
ナレーションや音楽は無闇に外すべきではないが、そのデメリットを上回るメリットがある場合にのみ、引き算すべきである。『家、ついて行ってイイですか?』には、音楽とナレーションを引き算するメリットが3つあった。
・深夜独特の緊迫感の創出
・唯一のメッセージ「あるがままの人生を肯定する」を浮かび上がらせる
・圧倒的なリアルさ
「ウザい」の魅力を引き出す
「見たことなくて、かつおもしろいもの」だと思ってもらうには、人が「ウザい」「嫌い」「ダサい」「ダルい」と感じるものの魅力を引き出すこと。一見、ネガティブなものでも「組み合わせ方」「切り取り方」「ストーリー」「機能」次第で、ポジティブな魅力を発見することができる。
現実社会を観察する中で「おもしろい!」と思う一瞬を自分の脳みその中に切り取ってストックしておくことが大切である。「おもしろさ」の発見は、普段の何気ない日常や、テレビや映画、読書などあらゆる場面にヒントが潜んでいる。