宇宙の構造を説明するために必要となる、相対性理論と量子力学を統一した理論を研究する物理学者たちに取材をして、空間やブラックホールについての仮説を紹介している一冊。
■世界は無秩序なのか
今、量子力学をはじめとする物理学の各分野では、場所も距離も、より深いレベルでは存在しないかもしれないという説が提案されている。物理学の実験では、2つの粒子の運命を結びつけて、一対の魔法のコインのように振る舞わせることができる。それらの粒子は、間に横たわる空間を伝わる力など一切存在しないにもかからわず、協調して振る舞う。これらの2個の粒子は、それぞれ宇宙の反対側に飛んで行って離れ離れになったとしても、一致した振る舞いをする。つまり、これらの粒子は局所性を破っている。要するに空間を超越している。
局所性という概念は、2つの側面を持つ。1つ目は「分離可能性」で、任意の2つの物体または1つの物体の2つの部分は、原理的には分離でき、分離したそれぞれを独立したものと見なすことができる。2つ目は「局所作用」で、物体と物体は互いに接触するか、あるいは間に存在する隔たりを埋めるために何かの媒介を使うか、いずれかの手段による以外、互いに作用しあうことはできない。
宇宙はもはや空間的ではないかもしれない。空間を絶対に必要なものと考える代わりに、それは可能な宇宙の状態の1つだと考えることができる。ちょうど氷が、水が取り得る状態の1つであるように。水が固体でいられる条件の範囲は、気体になる範囲よりも狭い。これと同様に、空間という状態は例外で、普通ではないのかもしれない。物理学の統一理論として提案されたもののほとんどは、宇宙が取り得る状態の大多数は空間的ではないと示唆している。
空間を生み出すためには、系はある程度、内的一貫性を持っていなければならない。この一貫性を保証するのが、系の粒子や場の量子もつれだ。私たちが知っているような空間を生み出すためには、これらの粒子もしくは場は、尺度ごとに量子もつれしていなければならない。個々の粒子は、隣の粒子と、粒子のペアは、別のペアと、個々の粒子グループは、別のグループという具合に。今日、物理学者たちは、量子もつれこそ空間を生み出しているのかもしれないと考えている。
著者 ジョージ・マッサー
科学ジャーナリスト 『サイエンティフィック・アメリカン』誌の寄稿編集者。アメリカ天文学会より「ジョナサン・エバーハート惑星科学ジャーナリズム賞」を、米国物理学協会より「サイエンス・コミュニケーション賞」を受賞。
帯 MIT教授 F・ウィルチェック |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに あらゆる謎の根源 | p.6 | 13分 | |
第1章 世界は局所性では解けない | p.23 | 39分 | |
第2章 実在の本質を求めて | p.72 | 44分 | |
第3章 量子力学のジレンマ | p.127 | 25分 | |
第4章 大論争 | p.159 | 37分 | |
第5章 まったく新たな空間と宇宙の姿 | p.206 | 48分 | |
第6章 時空を超えて | p.266 | 43分 | |
結び さらなる探求へ | p.320 | 16分 |
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重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ [Amazonへ] |
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