環境の変化に対応し、自己変革する組織の能力「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学を解説しながら、日本企業の進むべき道を説く一冊。
「両利きの経営」とダイナミック・ケイパビリティの関係性なども解説しながら、経営学の中心テーマを紹介しています。
■2つの能力
企業のケイパビリティ(能力)には次の2つの種類がある。
①オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)
②ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力)
ビジネス環境が安定している時、企業は利益最大化を目指してより効率的に活動しようとする。この時、企業内の資産や資源をより効率的に扱う企業の通常能力が「オーディナリー・ケイパビリティ」と呼ばれる。
長期的には、企業をめぐるビジネス環境は大きく変化する。変化の激しい状況で求められる能力が「ダイナミック・ケイパビリティ」である。その能力は「企業が環境の変化を感知し、そこに新ビジネスの機会を見出し、そして既存の知識、人財、資産およびオーディナリー・ケイパビリティを再構成・再配置・再編成する能力」のことである。
ダイナミック・ケイパビリティとは、企業内外の様々な固有の資源を調整し結合させている既存のオーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)を、環境の変化に対応させて再構成するより高次の能力(メタ・ケイパビリティ)のことである。
このようなより高次の能力であるダイナミック・ケイパビリティを成功的に利用するためには、企業は再構成・再配置されるべき多様な資産や資源およびオーディナリー・ケイパビリティを事前に保有する必要がある。
ダイナミック・ケイパビリティは、経営陣が保有すべき3つの能力カテゴリーに区別される。
①感知(センシング)
企業の経営陣が競争的状況を把握し、事業が直面する変化、機会や脅威を感知する能力
②捕捉(シージング)
企業の経営陣が、機会を捕捉し、脅威をかわすように、必要に応じて既存の事業や資源や知識を大胆に再構成し、再配置し、再利用する能力。
③変容(トランスフォーミング)
持続的な競争優位を維持するために、企業の経営陣がオーケストラの指揮者のように企業内外の資源や知識をオーケストレーションし、ビジネス・エコシステムを形成する能力。
このようなプロセスを「オーケストレーション」と呼び、これが円滑に回るように采配を振ることが経営者の役割であり、何よりも重要なのは経営者の意思決定である。そして、企業は、これら3つの能力を発揮することによって、既存の知識、技術、資産とオーディナリー・ケイパビリティを絶えず再結合、再構成、再配置し、変容して持続的競争優位を維持する必要がある。
著者 菊澤 研宗
1957年生まれ。慶應義塾大学商学部・商学研究科教授 防衛大学校教授・中央大学教授などを経て、2006年慶應義塾大学教授。 この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。 元経営哲学学会会長、現在、日本経営学会理事、経営行動研究学会理事、経営哲学学会理事。
週刊ダイヤモンド 2019年 5/18 号 [雑誌] (GAFAでわかる決算書入門) 作家 佐藤 優 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに──日本企業にとっての成功の本質 | p.1 | 4分 | |
序 章 日本企業が進むべき未来 | p.12 | 15分 | |
第1章 既存技術の転用を可能にする──富士フイルムのダイナミック・ケイパビリティ | p.42 | 10分 | |
第2章 独自のビジネス・エコシステムを形成できる──ソニーのダイナミック・ケイパビリティ | p.58 | 12分 | |
第3章 イノベーションのジレンマを回避できる──YKKのダイナミック・ケイパビリティ | p.77 | 8分 | |
第4章 日本的経営は絶滅も滅亡もしていない | p.93 | 8分 | |
第5章 日本企業の組織を特徴づける強いダイナミック・ケイパビリティ | p.106 | 14分 | |
第6章 株主主権論にもとづく米国流経営パラダイムを放棄せよ | p.129 | 13分 | |
第7章 ダイナミック・ケイパビリティによる企業の戦略経営化 | p.154 | 15分 | |
第8章 ダイナミック・ケイパビリティによる企業の巨大化 | p.178 | 12分 | |
第9章 ダイナミック・ケイパビリティによる企業の国際化 | p.198 | 10分 | |
第10章 新古典派経済学的な米国流経営パラダイムを超えて | p.217 | 7分 | |
第11章 新たな経営パラダイムを生む「進化論的ダイナミック・ケイパビリティ論」 | p.229 | 6分 | |
第12章 進化論的ダイナミック・ケイパビリティ論による不条理回避 | p.239 | 12分 | |
おわりに──日本企業のためのダイナミック・ケイパビリティ論 | p.258 | 2分 |
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