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2019/08/30更新

わたしたちを救う経済学──破綻したからこそ見える世界の真実 (ele-king books)

479分

10P

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欧州経済はなぜ危機的状況から抜け出せないのか

ユーロのシステム上の欠陥と歴史的背景を説明しながら、現在も不安定な欧州経済の問題を解説している一冊。ギリシアをはじめとする多額の債務国をどのようにすれば立て直すことができるのかがわかります。


■欧州通貨危機の遠因
欧州の共通通貨の危機は、その遠因を1971年の出来事、すなわち欧州がいわゆる「ドル圏」からニクソンとコナリーとヴォルカーによって切り捨てられたことに求めることができる。ニクソン大統領が1971年に引導を渡した金融システムは、1944年に米国ブレトンウッズにあるホテルの会議室で誕生した。欧州の戦争で犠牲になったものの1つが通貨だった。ナチに占領された国々では、親独政権が現地紙幣を大量に印刷しまくって枢軸国の戦争体制を支えたため、欧州の人々の懐にあるお金は、それが印刷されている紙ほどの値打ちもなくなった。国際貿易の場において、通用する通貨として唯一残ったのはドルであり、ドルのみが世界貿易を円滑に支えることができた。

欧州には新しい通貨に価値を持たせる何かが必要だった。そこで、ドルとの固定為替レートで裏打ちされた新規の欧州通貨が発行された。米国は、ドルと金の交換レートを固定して完全兌換性を保証した。この新たな仕組みはブレトンウッズ体制として歴史に刻まれた。

超短要約

ユーロ圏が終わりのに存在の危機に見舞われ、それによりヨーロッパの人々が引き裂かれている理由は、本来の政治的な黒字還流メカニズムの代わりに、好調な時だけしか機能しない黒字還流システムに当初から依存しているためである。もっと重要なのは、ユーロ圏の政治機構やその背後の既得権益、とりわけフランクフルトやパリの民間金融機関や銀行などが、危機が発生した後でさえも、そのようなメカニズムを作らせない立場に凝り固まっていることだ。その理由の1つは、欧州のビジネスは米国主導の黒字還流システムに永遠にただ乗りできるのが当たり前という欧州エリートの思考だ。彼らは、米国が欧州のために安定装置の役割を永遠に果たしてくれると考えていた。

実際この想定は、マーストリヒト条約に書き込まれたユーロ圏創設の理念の1つである。その背後にある考えは単純だ。ユーロ建ての債務は、民間か公共かを問わず、すべてそれぞれの国民国家の国境内にとどまる。ギリシャ政府がフランスの銀行に負う債務であれ、アイルランドの銀行が民間債権者に負う債務であれ、ユーロ建ての債務が、複数の国で共有されることはない。欧州諸国の間で債務をプールする仕組みはなく、銀行預金の保証負担も共有されない。共通の通貨制度の危機に対処するための共有基金も存在してはならないのだ。

この原則は、政治的な黒字還流メカニズムを持つことを禁じているに等しい。その結果、ユーロが安定通貨として機能できるのは、他の誰かが安定させてくれる時だけということになる。その誰かとは、米国経済だった。

著者 ヤニス・バルファキス

1961年生まれ。アテネ大学 経済学教授 2015年、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務め、EU から財政緊縮策を迫られるなか大幅な債務帳消しを主張し、世界的な話題となった。長年イギリス、オーストラリア、アメリカで経済学を教え、現在はアテネ大学で経済学教授を務めている。 2016年にはDiEM25(民主的ヨーロッパ運動2025)を共同で設立し、その理念を世界中に訴えている。

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帯
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帯5 帯5
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章の構成 / 読書指針

章名 開始 目安 重要度
序章──赤い毛布 p.11 14分
1 弱い者は耐えるのみ p.27 36分
2 とんでもない提案 p.69 46分
3 不安な巡礼者 p.123 36分
4 トロイの木馬 p.165 36分
5 捨てられたもの p.207 32分
6 逆戻しの錬金術師 p.245 70分
7 バック・トゥ・ザ・フューチャー p.327 51分
8 欧州の危機、アメリカの将来 p.387 17分
あとがき──不協和音からハーモニーへ p.407 2分
補遺 p.411 12分

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