人はどのようにして他人に影響を与えるのか。認知神経科学の知見をもとに、他人を説得するために必要な考え方を解説している一冊。
■事実で人の意見を変えられるとは限らない
脳は、情報から大きな喜びを得るようにプログラムされている。他人の考えを変えようとする時、デジタル革命の到来は大変好都合なものに思われるかもしれない。大量のデータがいつでも手に入り、高性能のコンピュータが自由に使える今、私たちは分析を重ねて知識を深め、その結果もたらされた正確な情報を共有することができる。
しかし、データや慎重に考え抜いた結論は、人の意見を変える役に立つとは限らない。なぜなら、人の脳は何百万年も前からの産物であるのに対して、大量のデータ、分析ツール、高性能コンピュータが入手しやすくなったのは、ほんの20、30年前のことだからだ。結局のところ、人間がどんなにデータ好きであろうと、脳がそのデータを評価して判断を下す時に用いている価値基準は、私たちの多くが脳はこれを使っているに違いないと信じている価値基準とまったく別物だ。情報や論理を優先したアプローチは、意欲、恐怖、希望、欲望など、私たち人間の中核にあるものを蔑ろにしている。
他人の強固な意見を変えるにはデータは力不足だ。たとえその意見をぐらつかせるような科学的根拠を突きつけられたとしても、人は時に頑として考えを譲らない。
誰かに影響を与えたい時、何よりもまず自分自身を念頭に置き、自分にとって説得力があるもの、自身の心理状態、欲望、目標などを考える。しかし、目の前にいる人の行動や信念に影響を与えたいのなら、まずその人の頭の中で何が起こっているのかを理解し、その人の脳の働きに寄り添う必要がある。
人間は、情報に対して公平な対応をするようには作られてはいない。数字や統計は真実を明らかにする上で必要な素晴らしい道具だが、人の信念を変えるには不十分だし、行動を促す力はほぼ皆無と言っていい。
実のところ、今日の私たちは押し寄せる大量の情報を身に受けることで、かえって自分の考えを変えないようになってきている。マウスをクリックするだけで、自分が信じたい情報を裏付けるデータが簡単に手に入るからだ。むしろ、私たちの信念を形作っているのは欲求だ。だとすれば、意欲や感情を利用しない限り、相手も自分も考えを変えることはない。
著者 ターリ シャーロット
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授 (認知神経科学) 同大学「アフェクティブ・ブレイン・ラボ」所長 意思決定、感情、影響の研究に関する論文を、ネイチャー、サイエンス、ネイチャー・ニューロサイエンス、サイコロジカル・サイエンスなど多数の学術誌に発表。神経科学者になる前は金融業界で数年間働き、イスラエル空軍で兵役も務めた。
帯 ハーバード大学ロースクール教授 キャス・サンスティーン |
週刊東洋経済 2019年11/9号 [雑誌](EC・決済 覇権バトル) スクウェイブ社長 黒須 豊 |
週刊ダイヤモンド 2019年 12/21 号 [雑誌] (伝える! 震わす! ビジネスパーソンのための書く力。) 作家 瀬名 秀明 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに――馬用の巨大注射針 | p.7 | 8分 | |
1 事実で人を説得できるか?(事前の信念) | p.17 | 21分 | |
2 ルナティックな計画を承認させるには?(感情) | p.45 | 18分 | |
3 快楽で動かし、恐怖で凍りつかせる(インセンティブ) | p.69 | 23分 | |
4 権限を与えて人を動かす(主体性) | p.99 | 23分 | |
5 相手が本当に知りたがっていること(好奇心) | p.129 | 21分 | |
6 ストレスは判断にどんな影響を与えるか?(心の状態) | p.157 | 18分 | |
7 赤ちゃんはスマホがお好き(他人 その1) | p.181 | 21分 | |
8 「みんなの意見」は本当に正しい?(他人 その2) | p.209 | 21分 | |
9 影響力の未来 | p.237 | 11分 |
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