長い人類の歴史の中で、標準的な様式であった狩猟採集社会とはどのようなものだったのか。週15時間しか働かず、必要に足るものだけを得て暮らすことで、豊かさを築いていた文明から現代社会の課題を考えさせる一冊。
■ケインズの間違い
1930年の冬、ケインズは「孫の世代の経済的可能性」と題した楽観的な小論を発表した。ケインズは、技術革新と生産性の向上と長期の資本増加によって、誰もが週15時間働くだけで物質的なニーズを満たすことができ、お金や富の蓄積に縛られず自由になって、もっと深い喜びに目を向ける時代がくるといった。彼は、2030年までに、先進国の生活水準は今日の4〜8倍になるだろうと予想した。技術の進歩や生産性の向上については、ケインズは正しかった。1945〜2005年にアメリカの労働生産性は4倍上昇した。
しかし、週15時間の労働時間については、ケインズは間違っていた。ヨーロッパとアメリカでは平均労働時間が週40時間ほどだったのが、この50年間で週30〜35時間に減少したとはいえ、労働時間の減少のペースはかなり緩やかだった。彼の予想の前に立ちはだかった最大の障壁は「懸命に働こうとする、そして新たな富を築こうとする人間の本能」だった。
成功した狩猟採集社会は、余剰を避け、人々に社会的圧力を加えることで平等主義を維持したが、成功した農耕牧畜社会はそれとは反対のことを行った。まず、余剰を飢餓と災害のリスクの備えにした。安全に保存された余剰食料は、不作の年には生死を分けた。しかし、やがて農耕牧畜民は余剰を労働の具体的な報酬とみるようになり、報酬を「稼ぐ」という感覚が生まれた。それに十分大量の余剰があれば、田畑を耕すつらい生活からの自由を買えるかもしれないという期待を抱くようになった。
食料保存の新たな技術と方法の開発によって、農耕牧畜民は「富」を生み出した。そして食料を蓄積することで労働も蓄積するようになった。そして労働自体が交換できるものと考えられるようになった。農耕牧畜社会で開発されたあらゆる交易や交換のシステムは、物理的な品物の移動や蓄積を可能にしたが、それらは人間生活で体感的にわかる敬意や愛、天国へのアクセス、運のようなものを希薄にした。余剰物の生産や管理、分配のとりわけ効果的なシステムを開発した社会が最も急速に成長し、最も影響力を持つようになった。
著者 ジェイムス・スーズマン
社会人類学者 南部アフリカの政治経済を専門とする。25年以上、南部アフリカであらゆる主要なブッシュマン・グループとともに暮らし、調査してきた。 スマッツ特別研究員としてケンブリッジ大学でアフリカ研究に従事。シンクタンク「アンスロポス(Anthropos)」を設立し、人類学的観点から現代の社会的・経済的問題の解決を図る。 ニューヨーク・タイムズ紙でも執筆。
帯 ヘブライ大学歴史学部 教授 ユヴァル・ノア・ハラリ |
帯2 作家 エリザベス・マーシャル・トーマス |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第一章 勤勉の報酬 | p.20 | 20分 | |
第二章 母なる山 | p.46 | 13分 | |
第三章 浜辺の小競りあい | p.63 | 9分 | |
第四章 入植者 | p.75 | 22分 | |
第五章 いまを生きる | p.103 | 15分 | |
第六章 ツムクウェの道路 | p.122 | 19分 | |
第七章 洞のある木 | p.148 | 12分 | |
第八章 強い食べ物 | p.164 | 9分 | |
第九章 ゾウ狩り | p.175 | 19分 | |
第十章 ピナクル・ポイント | p.200 | 11分 | |
第十一章 神からの贈り物 | p.214 | 17分 | |
第十二章 狩猟と獲物への感情移入 | p.236 | 15分 | |
第十三章 狩りの成功を侮辱する | p.255 | 19分 | |
第十四章 ライオンが危険な存在になるとき | p.280 | 13分 | |
第十五章 恐れと農業 | p.297 | 12分 | |
第十六章 ウシの国 | p.312 | 14分 | |
第十七章 狂った神々 | p.330 | 17分 | |
第十八章 約束の地 | p.352 | 17分 |