大企業がイノベーションを起こすための原則と手法を紹介する実践書。イノベーションのプロセスを理解し、組織をどのようにマネジメントすれば良いのかが書かれています。
■組織をエコシステムと捉えよ
本来、イノベーションを成功させるためには、大手企業がスタートアップのように行動する必要はない。ドル箱事業を、イノベーションに投資するための資金を得る手段として活用すれば良い。
ところが、企業があたかも単一のビジネスモデルを持つ単一組織のように行動しようとすると問題が生じる。そのように考える企業は、スタートアップのように行動するしかないという二者択一をせざるをえなくなるからだ。
大企業がイノベーションを起こす最良の方法は、自らを様々な製品、サービス、ビジネスモデルが共存するイノベーション・エコシステムと捉えることである。そうすることで、ビジネスモデルを確立済みの事業にも、まだ探索モードにある事業案にも、適切な管理ツールを使うことができる。そうすれば企業は探索と実行の両方に優れた両利きの組織になれる。
すでに成長を遂げた既存企業があらためてイノベーションを成功させるには、実行と探索を同時に行う方法を考え出さなければならない。従って、大企業は自分たちが単一のビジネスモデルを持つ一枚岩の組織であると考えるのをやめる必要がある。その代わりに、大企業は自社の各事業に対してエコシステムの考え方を適用すべきだ。
すべての現代企業は、立ち上げ済みのドル箱事業の遂行と、新たな収益を生む新規事業開発とのバランスを保つ必要がある。即ち、事業案がイノベーションの行程のどこにあるかに応じて、適切な手法で管理しなければならない。
新事業を創造するための管理手法は、すでに成功している事業を管理する方法とは異なる。既知のビジネスモデルの実行においては、ほとんどのケースでコスト最適化と運用効率の最大化を念頭に、従来型の会計手法で管理できる。そして、伝統的な指標である利益、投資収益率(ROI)、年間経常収益(ARR)、正味現在価値(NPV)などで成功しているかどうかを測定可能だ。
対照的に新たなビジネスモデルの探索は、デザイン思考、顧客開発、仮説検証といったスタートアップの方法論で管理しなければならない。その成功は、イノベーション・チームがいかに収益性の高いビジネスモデルを探索できたかで測定する。
■セレンディピュティを生み出し、利益に変える組織を設計する
イノベーションを成功させるためには、様々な部門の複数の関係者が相互に協力する必要がある。イノベーションにはアイデア創造、事業開発、初期顧客への販売、成長、事業拡大といった一連の流れがあるが、その中で自社組織の複数部門が必然的に関与することになる。組織的な方向性が一致していることが極めて重要な理由はここにある。そこで次のような内部プロセスを構築すると良い。
①創造的なアイデアのひらめきを生み出すセレンディピティを促進する。
②創造的なアイデア生成のプロセスを文書化し、検証する。
③アイデアを収益性のあるビジネスモデルに転換させる。
著者 エスター ゴンス
ネクスト・アムステルダム 共同創業者 ネクスト・アムステルダムの共同創業者兼出資者として、アイデア段階から有効なビジネスモデル構築までのスタートアップ支援を行う。 アムステルダム応用科学大学のコミュニケーションおよびマルチメディア・デザイン学科においてアントレプレナーシップ講座を開設。さらに、国際的な講演者として2011年に最初のスタートアップ・バス・ヨーロッパ・ツアーを主催するとともに、過去6年にわたってロックスタート・アクセラレーターの主席メンターを務める。 オランダにリーン・スタートアップ運動がもたらされた際、ビジュアル空間思想家として一翼を担った。これまで100社を超えるスタートアップ企業のメンターを務め、現在もその多数においてアドバイザーを務める。 企業とスタートアップ・エコシステムの橋渡しがネクスト・アムステルダムの重要な機能であることから、企業内イノベーションに携わることも多い。
著者 ダン トマコンサルタント 世界各国のハイテクおよびインターネット関連スタートアップに起業家として関与した経験を持つ、欧州のアントレプレーナー・コミュニティのリーダー的存在。 近年は企業におけるイノベーション管理、特に大企業内での破壊的な新規事業の立ち上げを実現するために、大企業に必要とされる変革に注力している。ドイツテレコム、ボッシュ、ジャガー、ランドローバー、アリアンツといった企業を顧客に持つ。 エコシステムを通じたイノベーション実現アプローチの主要な提唱者として、アジアや欧州の各国政府に対する国策イノベーション・エコシステム構築や国策イノベーション戦略立案の支援も行う。 公的機関や民間企業との業務経験を取りまとめたさまざまな体験型コースを世界各国の大学で提供している。
著者 テンダイ ヴィキベネリ・ジェイコブス 創業者兼主席コンサルタント イノベーション戦略コンサルティング会社ベネリ・ジェイコブスの創業者兼主席コンサルタントとして、企業がスタートアップ同様にイノベーションを起こすための社内エコシステム構築を支援。 企業各社向けにコンサルタント、講師、トレーナーとしてサービスを提供。フォーブス誌にも寄稿を行う。 ピアソンと協働でプロダクト・ライフサイクル手法の開発と同社への導入を実施、プロダクト・ライフサイクル手法は2015年にニューヨークで行われたコーポレート・アントレプレナー・アワードにおいてベスト・イノベーション・アワードを受賞した。
帯 関西学院経営戦略研究科副研究科長 玉田 俊平太 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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Introduction イノベーションのパラドックス | p.15 | 8分 | |
Chapter 1 イノベーション・エコシステム | p.27 | 18分 | |
Chapter 2 イノベーション投資方針 | p.49 | 21分 | |
Chapter 3 イノベーション・ポートフォリオ | p.75 | 23分 | |
Chapter 4 イノベーション・フレームワーク | p.103 | 28分 | |
Chapter 5 イノベーションKPI | p.137 | 26分 | |
Chapter 6 アイデア創造 | p.171 | 44分 | |
Chapter 7 アイデア検証 | p.225 | 44分 | |
Chapter 8 事業の拡大 | p.279 | 29分 | |
Chapter 9 事業の見直し | p.315 | 23分 | |
Chapter 10 今日から始めよう | p.343 | 34分 | |
あとがき | p.385 | 1分 |
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