料理がヒトを進化させた
料理は人の栄養摂取になくてはならないもので、大昔から行われ、ヒトの進化において極めて重要な活動だった。私たちのいとこに当たる大型類人猿は基本的に菜食主義者で、葉っぱや果物を餌にして生きている。人間は、完全菜食主義の種族から、段階的に進化してきた。人間の肉食の慣習は20万年前に進化したばかりの我々ホモ・サピエンスよりはるかに古く、最初の人類の種がアウストラロピテクス属から進化した280万年前頃よりもさらに遡ることになる。195万年前には、ヒト属は、カバやクロコダイルのような難敵まで食用に解体していて、魚やカメも食べていた。
ほぼ菜食主義者だった祖先から進化した初期のヒト属は、無制限の肉食に対処することはできなかった。赤身肉しか食べないとカロリーが不足するだけでなく、肉を食べ過ぎると、肝臓や腎臓に負担がかかりすぎた。こうした問題は、食事に十分な脂肪が含まれていれば避けられる。ヒト属は雑食性で動物だけでなく植物も食べていたことは間違いない。
アフリカには燃えた動物の骨を含むたき火跡が複数あり、中には解体処理の痕跡が骨に残っているところさえあるので、人類初のバーベキューは150万年前には行われていたようだ。
食習慣はヒトの進化の方向づけに非常に強い影響を与えてきた。脳の大きいヒト属の進化は料理がきっかけになったと言われる。チンパンジーに比べ、ヒト属は口が小さく、顎の力が弱く、歯も小さく、胃も小さく、腸も短く、全体として消化器官が小さい。頭部と腹部のこのような特徴はすべて、加熱によって料理したエネルギー豊富な軟らかい食べ物に合わせた適応だったという。ヒト属の腹は、生のまま食べる草食動物の大容量の消化器官を納められるほど大きくなかった。
料理は食べ物の消化率を高め、より多くのエネルギーを引き出せるようになるし、多くの毒素を不活性化するので、ヒト属の進化の可能性に新たな展望を開いた。料理は、大きな脳を動かすのに必要なエネルギーを与えてくれた。人間の進化において何よりも重要な傾向は、過去200万年間にわたって脳のサイズが着々と大きくなってきたことだ。大きくて賢い脳が、複雑な言語や抽象的思考やそれから生じるあらゆる能力などの、人間独自の力を引き出した。
私たちの脳は同じ背格好の霊長類の脳の平均サイズよりもはるかに大きいのに、消化器官ははるかに小さい。消化器官を節約することによって、進化はより大きな脳に惜しげもなくエネルギーを使うためのエネルギーを取っておいた。