流れに任せる
しないよりする方がいいに決まっているという発想は、現代ではもはや成り立たない。しないでいるためには、自分は他者の力が作用する世界にいる、ということを理解する必要がある。私たちは取り巻く環境と関わり、乗っかり、後押しを受けて暮らしている。必要なのは身構えず、無理に押し通そうとせず、エフォートレスに受け入れていくことではないか。
しないというのは、複雑でダイナミックで相互に結びついたシステムの中で、その流動的なプロセスに向き合うことだ。私たちがどんな風に生き、周囲の世界や人々とどんな風に関わっているか、そこに意識を向けられるなら、生命のエネルギーと足並みを揃えられる。
逆潮に押されて苦しくなった時、自分の胸に問いかけてみること。自分は何を目指しているのか、今の状態は自然なのか。潮に逆らうのをやめてみたら、新しい選択肢が浮かび上がってくるかもしれない。
「ない」を受容する力
「ある」を追求する力(ポジティブ・ケイパビリティ)は、活動や努力や達成を通じて知を表明する知識や技術や競争の力を指す。「ない」を受容する力(ネガティブ・ケイパビリティ)の方は、知らないことやしないことを尊重する「待つ」「耐える」「観察する」「耳を傾ける」といった能力を指す。
人が仕事をしていくにあたっては、ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの両方が必要だ。「ある」ことの追求だけに重きをおきすぎると、行動することに執着しやすい。「ない」ことの受容だけを考えていると、人任せで空疎に終わってしまうかもしれない。どちらが良いとか、どちらが優れているとかという訳ではない。単に行動をするかしないかということではない。「しない」の対極にあるのは、流れに逆らい自分の意思も殺した拙速な行動や強迫観念的な行動に走ることだ。
ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの組み合わせが、確実と不確実の境目で働くための創造的度量(クリエイティブ・ケイパビリティ)を生む。
現代人は業績や成果、効率に対する多大なプレッシャーを感じている。辛抱強く待つこと、一時停止してみること、スローダウンすること、振り返って内省してみる時間をとること、新しいアイデアを呼び込む余白をつくること、試練の中の人間的要素を重視すること。こうした要素は、クリエイティブキャパシティを育てていくためには必要である。
クリエイティブキャパシティは境目に存在する。勝手気ままな行動から、強制された仕事へグラデーションしていく、その微妙な境目。「全く何もしない」から「しすぎる」までの移り変わりの境目。一歩下がり、動作を停止して全体を眺め、素材を集め、並べ、組み立て、織り込む。流れに任せ、取り囲む世界とまっすぐに向き合って手を結ぶ。