密造がウイスキーを作り出した
ウイスキーは当時、スコットランドの人々が自分たちで楽しむためにつくる「地酒」に過ぎなかった。それが1715〜1746年に起きたイギリス政府に対するスコットランドの「ジャコバイト蜂起」後、ウイスキーに重い税が課せられるようになった。そこでスコットランドの民は、山岳や渓谷などの辺鄙な場所で、ウイスキーを密造するようになった。そこでウイスキーの製造法が次第に変わっていった。
良質な水とピート(泥炭)が豊富にあり、原料となる麦芽の乾燥にピートを炊くという習慣が定着。さらにウイスキーを隠し持っておくために樽を使うようになった。
ブレンドの手法により拡大
密造に業を煮やしたイギリス政府は、密造を減らすために、蒸留業を免許制にした。これを受けて1824年、グレンリベットが免許を取得し、政府公認第1号の蒸溜所となった。その後、密造者たちも、政府公認の蒸留業者となっていった。
ウイスキーの風味の9割は樽で決まると言われるほど、樽はウイスキーの風味に影響を与える。同じ時期に同じ製法でつくられたウイスキーでも樽が違えば風味が異なる。グレンリベットは、毎回均一の味にするために原酒をブレンドする方法を取り入れた。この手法により、異なる蒸溜所のモルトウイスキーと、異なる蒸溜所のグレーンウイスキーとを混ぜたブレンテッドウイスキーが誕生した。グレーンウイスキーを混ぜたブレンテッドウイスキーは、飲みやすく安価で、評判が広がっていった。
1880年代後半から1890年代の10年間にかけて、スコッチはコニャックやブランデー、ワインなどと肩を並べる世界的な蒸留酒になった。ジョニーウォーカー、バランタイン、シーバスリーガルなど、今日まで続くスコッチのブランドは、ブレンテッドがつくられるようになった19世紀後半から20世紀初頭に誕生した。
ブレンテッドからシングルモルトへ
シングルモルトは、単一の蒸溜所のモルトウイスキーのみを瓶詰めしたものを指す。1987〜1988年に6つの選ばれた蒸溜所から「クラシックシリーズ」として、シングルモルトがリリースされた。シングルモルトは基本的にどれもクセが強く、大衆向きではないと考えられていたが、右肩上がりに販売が増えた。バランスの取れた飲みやすいブレンテッドウイスキーから、クセは強いけれどキャラクターがはっきりしているシングルモルトへと、人々の嗜好は移っていった。
2000年代には、クラフトウイスキーブームとなった。小規模な蒸溜所が増え、スコットランドでも2020年までの10年間で、60近い蒸溜所が誕生している。