最悪のシナリオ
京都議定書が採択された1997年の頃には、地球の気温上昇が2度を超えると深刻な事態になると考えられていた。大都市が洪水に見舞われ、干ばつと熱波、ハリケーンやモンスーンなど、以前は「自然災害」だったものが日常茶飯事の「悪天候」になる。もはやこのシナリオを避けることはできない。京都議定書から20年以上経っても、目標は実質的に何一つ達成できていない。法整備やグリーンエネルギーの導入が進み、各種活動も盛んになっているが、二酸化炭素の排出量はむしろ増えている。
2016年、パリ協定は平均気温の上昇幅を2度までと定めた。しかし、目標に着々と近づいている先進国は皆無である。気候は地球全体の問題だから、政治家の対応もいま一つ本気度が足りない。温暖化が日々の生活を破壊する威力を本当に理解できていない。
現時点で最新の報告は、パリ協定で決定しておきながら未だ実現していない対応を直ちに実行しないと、今世紀末までに平均気温は約3.2度上昇すると警告している。最近の研究は、今の気象モデルは2100年までの温暖化を半分程度に過小評価しているかもしれないと示唆している。そうなると上昇幅は4度になる。二酸化炭素の排出を大幅に削減しても気温が4〜5度は上がるとなると、地球全体が生命の住めなくなる星になりかねない。研究者はそれを「ホット・アース」と呼ぶ。
無策のまま温室効果ガスの排出増加の排出増加が止まらなければ、今世紀末に気温は8度上昇するというのが、国連が示す確率曲線の上限だ。気温が今より8度高い世界では、もはや暑さは大した問題ではなくなる。海面水位が60mも上昇して、世界の大都市の2/3が水に浸かり、効率的に食料生産できる農地がわずかになってしまうからだ。森林は火災で焼失し、沿岸部はハリケーンに翻弄される。熱帯病が北上して、いま北極圏と呼ばれるところも飲み込むだろう。地球のおよそ1/3は暑くて住めなくなる。深刻な干ばつや熱波は日常の一部になる。
気候崩壊の連鎖
ここ数年の気象状態は、正常に戻ることは決してない。「自然災害」という概念も消えて、もっと深刻なものになる。仮に二酸化炭素の増加を直ちに止めることができたとしても、既に出した分が作用して温暖化は続く。
気候崩壊の連鎖反応は地球レベルで起こるだろう。地球が温暖化すると北極の氷が融ける。氷が減ると太陽光線が反射されずにそのまま吸収されるため、温暖化が加速する。海水温が上がれば、海水の二酸化炭素吸収量が減って、温暖化はさらに進む。気温が上がって北極圏の永久凍土が融けると、内部に閉じ込められていた1兆8000億トンもの二酸化炭素が放出される。いま大気中に存在する二酸化炭素の2倍以上だ。一部は二酸化炭素の34倍の温室効果を持つメタンとして蒸発する可能性もある。